地獄のカーバトル 番外編 32R VS 34R
   ―――ある日の某所。 「なぁ慎二、お前、マジでこんな仕様にしたのか?」 「マジもマジ、やっぱエリートサラリーマンは違うだろ?」  平 慎二 は笑って、鳴海 孝之 の背中をバンバンと叩いた。 「いってぇなぁ! いちいち叩くなよ」 「真紅のR34GT-Rに、フルチューン600馬力のRB26だぜ?」 「これ、一体いくらかかったんだよ?」 「車体本体が程度良いのを買って、450万。改造費に、500万」 「ご、ごひゃく・・・!?」  孝之の目が、一瞬飛び出した。 「どうよ?」 「ど、どうって・・・、お前、どこからそんな金・・・」 「エリートサラリーマンだからな、ローンだ、ローン」 「・・・何年で組んだ?」 「そうだな・・・、ざっと5年」 「・・・・・・・・」  開いた口も塞がらないとはこのこと。 「・・・で、どうすんのさ、これから」 「やっぱ峠っしょ!」 「ふぅん? どこの峠?」 「久○井の峠!」 「まぁいっけど・・・」 「孝之も付き合えよ!」 「だって、お前の運転あぶねーじゃん」 「へーきだって」  事実、危ないのである。 去年も、愛車のR33GT-Rを峠でガードレールに刺さり、潰したばかり。 「水月が心配すんのさ、『せっかく就職したのに、慎二君もろとも事故して入院なんてこ とになったら・・・』 って」 「・・・俺、そんなに危ない運転か?」 「・・・自覚してないんかい」  慎二も、頭良いんか悪いんかわからへんがな。<なぜ関西弁? 「でもまーいいから、お前も乗れよ」  慎二は、運転性に颯爽の乗り込み、助手席をバンバンと叩いて孝之を誘う。 「マジで事故んなよ?」 「だいじょーぶだって」 「・・・はぁ」  孝之は、溜め息をつくと、助手席の乗り込んだ。 「よっしゃ!」  キュリリリリ・・・ ウォン!! 「これよこれ! この音!」  RB26の音を聞いて、喜んでいる。 「くれぐれも、安全運転で頼むからな」 「わーってるよ」  慎二が、ギヤを一速にいれ、クラッチミート。 プスン 「・・・・おい」  エンストさせた。 「わりーわりー。トリプルプレートクラッチなもんで、むずいんだよな」  必至に弁解しながら、キーを再び捻る。 「大丈夫かな・・・ホントに・・・」  孝之の心配は、この後、現実のものとなる。  久○井の峠 「ひゃっほ〜う!」 「ば、バカっ、もっとゆっくり走れよ」  コーナーを80キロで曲がっている。 「これが気持ちいーんだって!」  直線で、アクセルを踏んで、さらに速度を上げる。 「う、うわぁぁぁぁ!! もっと安全運転しろよぉ!!」 「ははははっ! 孝之も怖がりだなぁ!」 「う、うるせー!」  慎二が笑っている後方100メートルに、猛スピードで迫ってくる一台の車。 「あん?」  バックミラーを見て、それに気付く。 「な、なんかすげー勢いできてるぞ?」 「俺の34Rに勝負挑もうって? いいじゃん、やってやるよ」  そして、さらに慎二はアクセルを踏み込む。  ギャァァ! 軽いホイールスピンと共に、加速する34R。 「ぐぅぅ!」  その加速に、孝之はのけぞる。 「ここで3速にシフトアップ!」  短い直線区間で、すでに速度は140キロを超えていた。 「あ、あぶねーって!」 「んなことあるか!」  フォォッ、フォウオォ!! 強烈なブレーキングGと共に、2速にシフトダウン。 速度は、90キロ。 「うわぁぁぁぁ!」  凄い勢いで、周りの景色が過ぎてゆく。 「どうよ!? こんだけのペースなら、ついてこれねーだろ!?」  笑いながら、バックミラーを見る慎二。 「な、なにぃ!?」  そこには、ぴったりと34Rに張り付いて、煽ってきている、漆黒の32Rの姿が。 「や、やるじゃねーか!」  慎二はそう言うと、さらにペースを上げる。 「し、慎二!? もうヤバイだろ!?」 「ヤバくねぇ! なんせこっちは34Rだぜ!」  対抗車線側も使って、コーナーリングする。  ズルズル・・・  リヤが流れだす。 「っ!」  慎二は、必至にそれを修正。 「ば、ばかっ! 俺を殺す気か!」  34Rの室内は、かなり苛立った雰囲気に対し、 「遅いなぁ・・・」  32Rの室内はいたって穏やか。 「ねぇシンジ? 前の34R、どう思う?」  シンジとアスカが、ちゃっかり二回目の再会ながら、デート中。 「車の性能に、ドライバーの腕がついていってないね」 「やっぱね〜。かなり危ないわよね」 「うん、ドライバーの限界が低すぎ」 「そろそろ前に出るよ」 「そうね。遅すぎて退屈だもんね」  ここで、スクランブルブースト800馬力で。抜きに出る。 「な、なにぃ!!??」  慎二は、ビビった。 32Rが、34Rのアウトから、4輪ドリフトしながら抜きにでてきたのだ。 「うおぅ!?」  孝之も、その迫力に呆然。  フオォォォ!! すんなりと、32Rは前に出た。 「そんなっ!?」  あまりにもあっけなさ過ぎて、慎二は呆然自失。 「ク、クソッ! 負けるかっ!」  なんとか32Rについていこうとする。  ボオオォォォーーーッ!!!  長く回りこむコーナーを、微妙にスライドさせて駆け抜けていく32。 「お、俺だって!」  慎二は34Rをかなりのスピードでコーナーに突っ込ませた。 「な、っ!!?」  その瞬間、いっきにフロンタイヤが流れ、アンダーが出た。 「だ、だめだっ! 立て直せない!!」  目の前には、迫るガードレール。 「う、うわあああああああっ!!!!」  慎二と孝之は絶叫した。  ガッシャァーーーーン!!!! 34Rは、時速100キロでガードレールに激突。 「う、ううっ・・・」  慎二は、ハンドルに頭を打ちつけ、意識不明。(社外ハンドルでエアバックを取り払っ ているため) 孝之は、SRSエアバックのおかげで、なんとか無傷。  20分後・・・ ピーポーピーポー・・・ 『え〜、搭乗者2名のうち、負傷は1名。負傷者名は、平、慎二』  救急隊員が、無線で連絡している。 『意識不明の重体につき、緊急を要する状態』  そんな様子を、ただ呆然と見ているしかない孝之。  そこに、ひとりの女性が。 「孝之っ!」 「水月・・・」  速瀬 水月 孝之の奥さんである。 「もうっ! だからあれほど慎二君と一緒に車に乗っちゃダメって言ったのにっ!」 「・・・ゴメン」 「でも・・・孝之が無事で・・・よかった・・・」  水月の頬を、一筋の涙が伝った。 「あぁ・・・悪い、心配かけた」 「ホントよっ! 私がどれだけ心配したと思って・・・あっ」  泣きじゃくる水月を、孝之はそっと抱き締めた。 「・・・悪かった。もう二度と水月に心配かけるようなことはしないから」 「・・・うん」  その後、ことだが、平慎二は、全治6ヶ月の重症ながら、命は取り留めた。 が、二度と車を運転することはなかった。 「ローン残したまま。。。廃車。。。車輌保険かけとけばよかったぁぁぁーーーっ!!」  後日の久○井の峠。 「あれぇ? シンジ? あのそこのガードレールって、前と違ってない?」 「うん? そう言われてみればそうだね」 「きっと、下手なやつが刺さったんじゃないかしらね」 「アンダー炸裂でガシャン! ってとこかな」  シンジとアスカが、2人で峠を攻めてるときの会話である。 「ま、いっか」 「腕よりも限界越えないように気をつけるのは、走り屋の常識だね」 「うん」  2人の笑いが、車内に響いたのだった。 Fin.