地獄のカーバトル 〜O県編〜
 O県B市、S谷学校付近のワインディングロード  ボオオォォォッ!! 「ちっ! あのインテR、速すぎる・・・!」  DC2、インテグラタイプRを追う、一台のBNR32型、スカイラインGT-R。  パアアアァァァッ!!  ボオォォォォ!! 2台がS谷学校の駐車場入り口付近の高速コーナーへと突入。 「クッ! アンダーで曲がらないっ!」  一方、インテRはグイグイとノーズを入れていく。  BNR32は、2速7000回転をホールドしたまま、コーナーを曲がってゆくが、 それでもジワジワとインテに離される。 「ならばこのストレートで!」  コーナーを立ち上がり、トンネルが待ち構えるストレートに入る。  ボオォォォッ・・・、ポオォォォーッ!  3速全開の加速で、BNR32はインテRにグイグイと迫っていく。 「!!!」  と、突然目の前に、一般車が現れる。 「チッ!」  ボォン! ボォン! インテと32Rはハードブレーキングで減速。 「あの一般車、トンネルの中なんだからライトくらい点けろよ・・・」  インテとのバトルに水をさされたその男は、軽く舌打ちした。 「やれやれ、今回のバトルもこれまでか・・・」  今まで幾度となくこのインテとバトルしてるが、対戦成績は6戦4敗2分け。 いまだに一度として勝ったことはない。 「やっぱノーマルじゃつらいなぁ・・・」  その男、碇シンジは、そのワインディングから帰る途中、車への不満を呟いていた。 「足はノーマルのままだし、タイヤだってノーマルの225のままでグリップ不足、唯一 マフラーとエアクリを交換してるくらいのことだしなぁ・・・」  そうなのである。BNR32をローン組んで買ったはいいが、チューンする金がないた め、ノーマルのままである。 「もう少しいじらないと、あのインテには勝てないな・・・」  あのインテR、シンジの自宅からさほど離れていないところに置いてあるらしいのだが まだ停めているとこをみたことはない。 「はぁ、やっぱバイトだけじゃキツイかなぁ・・・」  せめて車のローンがなければ、チューンできているのになぁ・・・。  U部、シンジの自宅付近の車庫。  ボォォォ・・・。 カコッ、ジジッ 車庫に駐車し終えたシンジは、サイドブレーキを引いた。 「はぁ〜、やれやれ、この車燃費も悪いし」  メーターが1目盛り減っているのを見て、溜め息とともに呟いた。  ボボボボボッ・・・ バタンッ! 車から出て、ドアを閉める。 「ふぅ〜、今日は踏んだから、少し長めのアフターアイドルかな」  取りあえず、かなり回したため、2分にターボタイマーのアフターアイドリングを設定。  ボボボボッ・・・・、・・・・・。 エンジンが止まった。 「・・・さて、取りあえず帰るか」  車庫のシャッターを閉め、自宅へと帰宅するシンジ。  シンジの自宅 「あら、お帰りシンジ」 「あ、ただいま母さん」  母、碇ユイがたまたま玄関にいた。 「ふっ、今日も車遊びかシンジ」 「遊びで悪かったね・・・」  相変わらずの仏頂面で、ゲンドウも。 「ふぅ、ちょっと軽く休憩しようかな」  シンジは二階へと上がり、自分の部屋へと入った。 「さて、TAKA氏にでもメール送ろうかな」  シンジの従兄弟にあたるTAKA氏に、カコカコとメールを打って送る。  ピロロン 『送信完了』 「雑誌でも見ようかな」  そう言ってシンジは、手元に置いてあった OP△□ON2を読む。 「なになに・・・、K△Sの車高調が79800円・・・!? や、安いっ!」  いきなり開いたページに、激安車高調が紹介されていたため、シンジは目を見開いて驚 いた。 「でも・・・、怪しいなぁ・・・、安すぎて」  ちょっと不信そう。 チャラララ〜♪ 「おっと、メール返ってきたか」  TAKA氏から返ってきたメールを開いて読む。 「なになに・・・、FDにテインの車高調入れた・・・っ!?」  これまた驚愕したシンジ。 「行動早っ・・・」  TAKA氏は、シルバーのFD3S乗りである。 よくシンジとツルんで走りにいく。 「けど、いいなぁ・・・車高調・・・」  はぁ。と溜め息つくと、ねっころがった。 「軽く仮眠取ろうっと」  というわけで、少し寝ることにしたらしい。  その週末。  車庫のそばの土手にて。 「車高調入れたんだってね」 「ああ、まあな」  車高が下がって、尚更スタイルのよくなったFDを見ながら、シンジは言った。 「どうしよっか、これからS谷のワインディングに走りに行く?」 「いいな、軽くいってみるか」  というわけ、意見一致、早速S谷へいくことに。  キュルルル・・・ボォォッ! トルルルルル・・・、 FDの、ロータリー独特の早いアイドリング音が響く。 「じゃ、こっちも」  ボッボッボッ・・・ FDとは対照的に、鼓動のようなアイドリング音のBNR32。 「僕が先いくよ」  シンジは、手で先に行くとTAKA氏に合図すると、M橋の交差点に出た。  パッ 信号が青になった。 ボオオォォッ・・・、ポオオアァァァッ・・・  2台のマシンは、S谷に向けて走って行った。 国道□号線、交差点。  ここで2台は、国道□号線へと合流する交差点で信号待ちをしていた。 ここからのストレートは、一時的に2車線になるため、かなり飛ばせる。  パッ 青信号点灯。 「よし! いくよ!」  グッ アクセル全開! ボオオオオオォォァァァァァッ!!! 青信号と同時にアクセル全開のBNR32! ビイイイィィィン!! 続いてFDも全開! 「グゥゥッ・・・」  加速Gが、シートに身体を押し付ける。 ボオオオオッ! パアアアアァッ! 少し登り勾配となっているストレートを、2台のマシンが排気音を共鳴させながら疾走 していく。   「クッ! FDのが上か・・・!」  車重200キロの差がモロにきいて、FDがBNR32より一歩前に出る。  150・・・160・・・・ スピードメーターがどんどん上がっていく。 170・・・。 「!」  と、ここで前を走る一般車のトラックに引っ掛かり、減速。  ボォッ! パァッ! ヒールアンドトゥで、ギヤを一速落す。 「・・・やっぱこの加速感がたまらないんだよなぁ〜」  ふぅと一息つく。 「さて、いよいよS谷の道に入るよ」  ここからが、いよいよテクニカルコース。  S谷学校付近の道路。  ボオオォォォッ・・・・ パアアァァァッ・・・・ BNR32とFDが少し間を空けて、コーナーを攻めている。 「こういった中高速コーナーは、FDの得意分野だから、きっとまだTAKA氏は余力を かなり残してるだろうかな・・・」  ギャアアァァァァ・・・・ BNR32はタイヤが鳴くほど攻めているが、車高調を入れてさらにポテンシャルUP をしたFDは、まるで余裕かのようにクリアしていく。 「まだまだ!」  グッ! 2速全開の加速を、コーナー立ち上がりで。 ボォォワアアアァァァっ! 「チィッ・・・!」  横Gを受けながらの加速G。 唯一、BNR32が勝てる分野は、コーナーの立ち上がりであろう。 「んっ? あれは・・・」  その時、シンジの目の前に、一台のランエボが現れる。 「ブルーのエボ6GSRか・・・」  そう言えば、友達のINO君が、以前バイトしていたガソスタに、同じエボがあったな  パシパシッ シンジは、そのエボにパッシングしてみる。  チッカチッカ・・・ エボはそれに答えたかのように、ハザードを点滅させる。 そして・・・。 パッ ハザードが消えた。 ボオォォォ! 「こっちも!」  ボオオオォァァァッ! エボとBNR32がフルに飛ばす。 パアアアァァァッ! FDもそれに続く。 プシィィィッ・・・ エボがブローオフの音を響かせる。 「クッ! やはりエボはフットワークがいい!」  ラリーマシンに、シンジはジワジワと離されていく。 「この高速コーナーはどうだっ!」  シンジはめーいっぱいアウトから進入。 ギョワアアアア!! タイヤのスキール音が木霊する。  ギュォォォ・・・ 「ちぃ!」  BNR32のリヤが流れ、シンジは咄嗟にカウンターを当てた。 「差が開いたか!」  これがロスとなり、エボとの距離が開く。 「勝負できるポイントはあそこだけか・・・」  S谷のパーキング入り口付近の高速コーナー。 「よし! 飛び込むぞ!」  いつもはある程度マージンを取って走るこのコーナーを、今回は限界ギリギリの3速に 入れて周る。 「いいぞ・・・ジワジワ詰めてる・・・、もうちょい!」  だが、アクセルを入れすぎた。 「なにっ!?」  いきなりリヤが出て、カウンターを当てるが・・・。  ギョワアアアアァァーーーッ!! 「立て直せないっ!?」  落ち葉に乗ってしまったため、完全にスピンモーションに入ってしまった。 「ちっくっしょぉぉーーー!!」  グワァァァ・・・ トンネル入り口のフチが目前に迫ってくる。 「クッ、ダ、ダメだっ!」  ズギャァァァァッ!! 「うわああああっ!」  ズッガァァァン!! BNR32は、サイドからトンネル入り口のフチに激突・・・。 「うっ・・・クッ・・・」  一瞬、意識が飛びかけたシンジ。 「大丈夫っ!?」  そこに、上手くBNR32を避けたTAKA氏が、あわててFDから降りてシンジの元 へと駆け寄る。 「な、なんとか大丈夫・・・」  運転席側のドアは変形して開かないため、助手席側のドアを開ける。 「・・・完全にモノコックが逝ってるな・・・」  サイド面から潰れたBNR32を見て、TAKA氏は呟いた。 「僕の・・・GT-Rが・・・」  車からなんとか出たシンジは、愛車のその無残な姿に、脱力した。 「・・・・・・・・・」  TAKA氏も、BNR32を、ただただ無言で見つめるしかなかった。 「うっ・・・くっ・・・、僕の・・・僕のBNR32・・・」  ポタッ・・・ポタッ・・・ シンジの頬を、涙が伝って、地面に落ちた。 「ゴメンよ・・・GT-R・・・、僕が未熟だったばかりに・・・」  二度と、決して蘇ることのないBNR32に、シンジはただ謝ることしかできないのだ った。 第二話へ続く。
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