地獄のカーバトル 第2話 ありがとうGT−R
「それで、これからどうする?」 「・・・どうしようか、新しく車買うお金もないし・・・。まだ32Rのローンも残って るし・・・」  あの後、業者を呼び、どうにかクラッシュした32Rを運び終えた二人は、取り合えず シンジの家で話あっていた。 「32R・・・、直したらいくらかかるだろうかな?」 「どうだろうね・・・、モノコック自体歪んでるだろうから、100万はいく可能性ある かも・・・」 「・・・100万か・・・、さすがにキツイか」 「今の僕には、それだけの額をローンで組むほど、お金ないさ・・・」  はぁ〜、と溜め息ひとつのシンジ。 「でもいつまでも32Rを放っておくわけにもいかないんじゃ?」 「確かに・・・。どうしよっか・・・」  やはり世の中金がないとなにもできないものかと、余計に落ち込むシンジ。 「・・・取り合えず、解体屋でも回ってみるか」 「そうだね・・・」  取りあえずは解体屋で、適当な車でも探して周ることにした。  O崎車輌部品 「こんにちはーっ」  二人が解体屋について、早速従業員の人を呼んでみる。 「いらっしゃい」  すると奥から、40代と思われる一人の男が現れた。 「あ、どうも」 「こりゃあどうも、碇さん」  32R用に、中古ホイールを探してもらったりしていたので、既にその男性とは顔なじ みのシンジ。 「で、今日はどういう用件で?」 「実は・・・、GT-R、ぶつけちゃって・・・」 「・・・そりゃあ大変だな・・・」  一瞬驚いたような顔をしたその従業員。 「それで・・・、もし解体する前の車輌でいいのがあれば、探してもらいたいんですが」 「・・・希望は?」 「取りあえず、BNR32で」 「う〜ん・・・、あればいいけど・・・。まぁ一応探してみます」 「あ、はい」 「事務所でお待ちください」  その従業員はシンジ達を事務所に案内すると、パソコンをタイピングし始めた。 今の時代、解体屋も全国的なネットワークで繋がっているのだ。 「適度な車、あるかな・・・」 「どうだろうかな、BNR32となればすぐにはないかもしれないな」 「・・・そうだね」  カタカタッ 従業員が探しまくる。 「でも、それなりにあの32Rにはお世話になったよね・・・」 「ああ、早いな、もうあの32Rを買ってから2年か・・・」  と、その時従業員の手が止まった。  そして、シンジの方を向くと、その従業員は言った。 「ありましたよ、碇さん」 「えっ!?」  シンジは驚愕した。 「本当ですか!?」 「えぇ」  まさか本当にあるとは思っていなかったからだ。 「く、詳しく聞かせてください!」  まるで飛びつくように言った。 「この車、どうやらほんの数ヶ月前に県内の同業社のところに入ったものなんです」 「えぇ、それで・・・??」 「オーナー本人がその車を解体屋に持ってきて、廃車にしたいと言ってきたんです」 「ふむふむ・・・」  大体の成り行きは分かった。 「綺麗な車だったものですから、なぜ廃車にするのか聞いてみたのですが、その人は何も 言わずに・・・」 「なんでだろう・・・」 「さぁ・・・?」 「あ、とにかくありがとうございました、早速そこにいきたいのですが、場所は・・?」 「K市です」  K市のとある解体屋。 「こんにちは」 「どうもどうも、話はO崎車輌さんより伺っております」 「早速なんですが・・・」 「あ、はい、GT-Rですね」  そう言うとその従業員は案内を始めた。 「これがその車です」  山済みにされている車の横に置いてある黒いBNR32。 「本当にまだ綺麗ですね」 「えぇ、まだここにきてからそれほど経ってないですから」  そのBNR32を食い入るように見るシンジ。 「ちょっとボンネット開けてみてもいいですか?」 「ええどうぞ」  カコッ ドアのロックはかかってなく、レバーを引いてエンジンフードを開ける。 「うわ・・・すごい・・・」  そのエンジンルームを見て、シンジは驚いた。 「タービンが換えてある・・・、しかもRX−6とはなんとも渋い・・・」 「オーナーの話では、その車でレースなどにも参加していたらしいです」 「でしょうね、オイルクーラーが二基装備されてるし・・・」  なんといっても、エンジンルーム内がピカピカで、シンジの32Rよりも綺麗なことに なおさら驚いた。 「ちょっと車検証見させていただいていいですか?」 「どうぞ」  その車検証を見て、シンジはまたも驚いた。 「排気量が2.8Lに変更されてる・・・」  つまり、RB28化しているのである。 「名義は・・・、ヤマダエイジ・・・?」 「あ、そうそう、それとそのオーナーさん、なにやらプロのレーサーらしくて」  シンジは愕然として、TAKA氏と顔を見合わせた。 「まさか・・・、ラー□ン山田っ!?」 「まさかな・・・」  はははっ、と乾いた笑いしかでてこない。 「ま、まあいいか・・・」  取りあえず、前オーナーのことは気にしないことにした。 「それで、この車を売っていただきたいのですが・・・」 「はい。いいですよ」 「おいくらでしょうか?」 「10万円でいかがでしょうか?」 「えっ!? そんなに安くていいんですか?」 「まだ解体してないので人権費もかかってませんし、このまま解体しても部品の買い手が いるかどうかも分かりませんので」 「あ、ありがとうございます」  シンジは凄くいい車とめぐり合えた、そう思った。 「お金の方はちょっと今すぐには・・・」 「また後日で構いませんよ」 「すみません」  また、この従業員(実はここの責任者だった)の気前のよさにも感謝した。 「では、乗って持って帰ってもいいでしょうか?」 「構いませんよ、でも名義が前オーナーのものですから、くれぐれも捕まらないようにお 気をつけてくださいね」  はははっ、と二人して笑った。 「では、また後ほど」 「えぇ」  そしてシンジは32Rに乗り込んだ。 カチッ 責任者から受け取ったキーを、シリンダーに差込み、回す。 キュキュキュキュ・・・ ボオォッ! ドッドッドッ・・・ 「・・・凄い」  フルチューンエンジンのその鼓動は、まるで官能的だった。 「これは・・・6速か」  乗って気が付いたことだが、この32Rのミッションは、トラストの6速ドグであるの だ。 「よし・・・、取りあえず帰るか」  シンジは窓から顔を出して、 「どうもありがとうございました」 「いえいえ」  そしてギヤを1速に入れると、クラッチを繋いだ・・・。 が、 プスン・・・ 「・・・・・・・・」  クラッチがトリプルプレートで、ミートが難しいため、一発でエンスト。 「・・・は、恥ずかし・・・」  真っ赤になったシンジだった。  K市から自宅に戻るまでのバイパス  ボオオオォォォッ!! 「すごっ・・・」  その圧倒的な威圧感に、シンジは息を飲んでいた。 「普通に走らせただけでもこんなに凄さを感じるなんて・・・」  なんて車なんだ。  チッカチッカ 前の一般車が下の道に下りる。 「前方、オールクリアーか」  パッパーっ クラクションを鳴らして後ろのFDのTAKA氏に合図する、 「よし・・・、いくか!」  アクセルを、踏み込んだ。  ポオオォォァァァァっ! 「ぬおぉっ・・・」  今まで体験したことのない、猛烈な加速が、シンジを襲う。  ズギャァァアアッ!!  スピードメーターの針が、どんどん跳ね上がっていく。 プシャァァッ! 「シフトアップ!」  心地よいブローオフの音と共に、さらに加速するBNR32。 「や、ヤバイくらいだ・・・」  ググググッ  周りの景色が、凄い勢いで過ぎてゆく。 「い、息がもたない・・・!」  その加速Gは、シンジの肺を圧迫する。 「限界だっ・・・」  パッ 針が190km/hを示したところで、アクセルを緩める。 プシュッ 「凄すぎる・・・」  チラッとバックミラーを見ると、FDが離れていた。 「さすがにこれだけパワーが出てると、FDすら引き離せるか」  とてつもないパワー 「それにしても、なんて加速するんだ、この32Rは」  ブーストを落としていることを考慮しても、軽く600馬力は出ているハズだ。 「しかも足のセッティングが物凄い良い。踏んでも全然乱れない」  さすがはラー□ン山田の車。 「これならいける・・・、この32Rならどんな車にも勝てる!」  少なくとも、S谷学校付近のワインディングでは、敵などいないだろう。  B市のとあるモータース。 「すみません、碇ですが。32Rの件でお伺いしました」 「あぁ碇さん。ってあれ? その車は・・・?」 「えぇ、解体屋でいいのがあって」 「そうですか・・・、で、この車はどうします?」  その人の指差した先には、クラッシュしたシンジの32Rが。 「・・・もう、廃車にしようと思います。直すと修理代もかさみますし・・・」 「・・・賢明な判断ですね」  カツッカツッ シンジはその32Rのそばに行った。 「・・・今までありがとう、GT-R」  そして、語りかける。 「色んなことを学ばせてもらったよ、挙動とか、ペダルコントロールとか、数え切れない 程に」  2年間、ずっと。 「ありがとうGT-R、もう、安らかに眠ってね・・・」  そのボディを優しく撫でた。 「・・・すみません、では、この32R、廃車の手続きを・・・」 「・・・そうですね、では、陸運局に後日行きましょうか」 「・・・はい」  こうしてシンジは、新たなR32GT-Rと出会い、よきパートナーであったGT-Rと 別れを告げた。  漆黒のニューGT-Rの、そのプロジェクターライトは、まるでこれからの激戦を物語っ ているかのようだった。  第3話に続く。
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