地獄のカーバトル 第四話 宿敵、登場
 シンジの自宅 「ふわあぁぁ〜〜」  朝方、大きなあくびをしているシンジ。 「あ〜眠い・・・」  昨日遅くまで、ネットゲームをしていた関係で、もろ疲れが溜まっている。 「・・・でも、ヒマだなぁ・・・」  日曜なのにやることがないというのも、ある意味キツイ。 「・・・久々にあそこに走りに行ってみようかな」  どこに走りにいくつもりなのだろうか。 「ま、他にやることないしね」  車のキーを持つと、自宅を出ていくシンジだった。  久○井の海岸沿いの道路 「ここって昼間は結構車通るんだよなぁ・・・」  前を走る数台の一般車を見て溜め息ポツリ。 「しかもなんか工事中だしね・・・」  工事のため、信号待ち。 「なんかこんなにゆったり走ってると、フラストレーション溜まるんだよなぁ」  そう、自分の意識する速度より遅いと、かなりイライラするものである。  ボオォッ! 「やれやれ・・・」  ボオッ! ボオォォォォ・・・・、ボオォォッ! 信号待ちでヒマなので、空ぶかししてみるシンジ。  パンパッパン! アフターファイヤーが出る。 「夏は燃調濃いからね、ミスファイアリング使ってなくてもアフターファイヤー出るし」  パッ 信号が青になる。 「さて」  サイドブレーキを下ろし、ギヤを一速に入れて走り始める。  ボオォォォ・・・ 「・・・つまらない」  前が詰まっていて、低速走行しかできないため、RB26は低音しか発しない。 「・・・全然つまらないよ」  あの官能的な直6サウンドは、回してこそ出るというもの。 「だって、一般車10台くらい詰まってるし」  前は詰まりまくり。  チッカチッカ・・・ 「・・・ん?」  チッカチッカ・・・ なにやら、一般車の殆どが、ウインカーを出して曲がっていく。 「運動公園でなにかあるのかな?」  久○井にある運動公園は、よく陸上競技の大会が開かれる。  チッカチッカ・・・ 「おいおい」  しまいにゃシンジの前の一般車までも、一台残らず曲がっていく。 「・・・ま、いっか」  今日車が多かったのは、大会があるせいだろう。 「これでそろそろ・・・、踏んでいける!」  ボオオォォォォーーーーッ!! 「ぐうぅ」  アクセルを一気に踏み込む。  ポオォォォ・・・ ハーフスロットル 「っと、ここらは人が多いからね」  ブウゥゥン・・・  道幅もせまく、民家があって人がいることもあるため、一時減速。  ポオォォォ・・・  アクセルを緩めて、その区間を通過。 「さて、ここから本格的な峠だ!」  ボオオォォォォォ!!  再びアクセルを踏み込む。 「駆け上がれ!」  急勾配の登りを、まるで平地であるかのように加速する32R。 コーナーが迫る。 ポォッ! ヒールアンドトゥで2速に落とす。 「いい感じ」  先ほどのフラストレーションを晴らすべく、踏みまくる。 ギョワァァーーーーッ  265サイズのタイヤが鳴く。 「・・・ん?」  ふと、シンジはバックミラーを見てみると。 「・・・赤い、FC3S」  そこには、猛然と追いかけてきたFCが映っていた。 「僕も結構攻めてたけど、それに追いついてくるとはね」  相当攻め込まないと、まずシンジのRに追いつくことはないだろう。 「いいよ・・・、はたしてついてこれるかな!?」  ボオォォォォーーーー!!! さらにアクセルを踏み足す。 パアアァァァーーーー!!  FCも続いてアクセルを踏み足す。 「なんだ!?」  バックミラーを見たシンジは、ちょっとびびった。 「なんであんなに白煙もうもうと!?」  タイヤのホイールスピンで、白煙をあげまくるFC。 「よほどパワーがないと、あそこまでホイールスピンすることはないのに・・・」  ボオォォォーーーッ パアァァァーーーッ 「ついてくる!?」  コーナーでは、FCもかなり余力を残してついてくる。 「チッ!」  シンジは軽く舌打ちをした。  パシィッ! パシュッ! 2台のブローオフの音が響く。  ボォッ、ボオォォォ・・・・、ボオォォァァァァーーーッ! 「どうだ!」  たくみなアクセルコントロールで、わずかにスライドさせながらコーナーを抜けてゆく シンジ。  パアァァァッ、ポオォォォォーーーッ!! 対するFCも、FRの乗り方を分かっているようで、こちらも微妙にスライドさせなが ら、コーナーをクリア。 「クッ!」  シンジの頬を汗が通る。 「手強い!」  シンジの32Rが、煽られている。 ギョォォーーーーッ ギュゥゥーーーーッ 二台ともカウンターあてっぱなし。 タイヤがタレ気味のようだ。 「そうなってくると、こっちの方が有利かな!」  四駆の32Rが、タイヤのタレでオーバーステアの強くなったFCを、ジリジリと引き 離しにかかる。  ギャァッ、ギャァァァッ!! 立ち上がりごとに、少しずつ差を広げる。 「もう少し引き離せば、勝てる!」  というところで・・・。 「チッ!」  次の瞬間、舌打ち。 前が一般車で詰まっているのである。  プシッ! ボオォォォ・・・・ スローダウン。 「もうちょっとで勝てたのになぁ、なんでこういうときに一般車は邪魔するのかなぁ」  タイミングの悪さに、余計に腹が立つ。 「それにしても、あのFC・・・、速いな」  今までシンジの32Rが煽られたのは、あのFCだけである。  チッカチッカ ハザードを出す。 キキィ・・・ そして、車を道端に止める。  チッカチッカ 続いて、FCも同じように道端に停車。 「どんな奴なのか、顔を拝んでおこうか」  バタッ ドアを開けて、外にでるシンジ。 FCもドアが開く。 「!!!」  その時、シンジは衝撃を受けた。 「・・・女」  ポツッと呟くと、 「女で悪かったわね」  その女性が答えた。 「あ、ゴメン」 「・・・そんなことより、アンタ、速いわね」  その女性は勝気な口調で言う。 「そういうそっちも、随分と速いと思うけど」 「ま、ね」  腰に手を当てて、ロングヘアをかき上げながら喋るその女性。 「・・・そのFC、どんなチューンしてあるの?」  シンジがそう聞くと、その女性はボンネットを開ける。 「・・・これは!」 「そっ」  シンジは驚愕した。 「20B・・・、しかもツインターボ仕様」  そこに搭載されていたのは、3ローターの20Bである。 「しかも、かなり後ろにマウントされてある」  重い3ローターを後ろにずらして搭載することで、前後のバランスを取っているようだ。 「なかなか手が込んででしょ?」 「・・・凄いね。これ、パワーはどのくらい出てる?」 「ざっと600馬力」 「600か・・・」  だからあんなにパワーオーバーステアが出てたのだ。 「ちょっと車内を見せてもらってもいいかな?」 「いいわよ」  そして車内を覗いて、さらにシンジは驚いた。 無駄なものが一切無いのだ。 「内装も取っ払ってるし・・・、ロールケージも張り巡らせてある・・・」 「ちょっと快適性に欠けるのが欠点ね」  少なくとも、女性がこんな仕様に乗っているとは、驚きを隠せないシンジ。 「凄いね・・・」 「Rマジックのスペシャルチューンよ」  フロントマスクも、四灯固定式ライトにRマジックのエアロで固められ、リヤもFC専 用設計のGTウイングを装備されている。 「・・・はは、すごすぎだね」  もはやシンジも笑うしかない。 「でも、タイヤが垂れたあと、アンタについていけなかったけどね」 「しょうがないさ、駆動方式違うんだし」  でも、これだけのマシンを操るその女性を、シンジは心底凄いと思った。 「・・・君、名前は?」 「人にものを尋ねるときは、まず自分からっていうのが常識じゃない?」 「それもそうだね」  フッ、と笑ってみせる。 「僕は碇シンジ」 「アタシ、惣流・アスカ・ラングレー」  アスカは、手を差し出した。 「よろしく」  シンジが、その手を掴みむ、握手。 「こっちこそ、よろしく」  それは、新たな出逢いと共に、新たなライバルの誕生であった。  第5話に続く。
[戻る]