アニメ第15話のサイドストーリーとなっております。

抱き締めても・・・


アスカの部屋 「なんで・・・。」  アスカはシンジとのキスの後、部屋に閉じこもり、泣きそうな顔をして俯いていた。 「なんで抱き締めてもくれないのよ・・・」  アイツがそんな甲斐性持ってるなんて最初っから思ってないわよ。 「でも、せめて抱き締めてくれてもいいじゃない・・・・」 「どうしてアタシの気持ちに気付いてくれないのよ・・・」 「このアタシが暇潰しなんかでキスするわけないじゃない・・・」  でも、シンジは気付いてくれなかった。  シンジは分かってくれなかった。  加持さんとミサトも縒りを戻した。 「アタシ、また独りになっちゃうの・・?」 「誰もアタシを見てくれない」 「周りの人が必要としているのは、エヴァのパイロットとしてのアタシ。 もしエヴァが無くなったら、誰もアタシを見てくれない」 シンジなら、エヴァのパイロットじゃないアタシを見てくれると思ってた。 でも、シンジはファーストを見てる。 アタシじゃなくて、ファーストを。 アタシを見て!! 翌朝・・・ 「アスカぁー? そろそろ起きないと遅刻するよぉー?」  朝食の準備を終えたシンジが、アスカを起こそうと部屋の前まで来る。  だが、勝手に入っては後が怖いので、あくまで部屋の前までである。  ・・・・・・・・・  アスカからの返事はない。  いつもなら、少なくとも返事くらいはしてくる。 「どうかしたの? アスカ?」  シンジは再び呼び掛ける。  が、やはり返事は無い。  その内出てくるだろうと、シンジは取り合えずその場を後にしようと、 リビングの方を向いた。  と、調度その時  ガラッ  襖が開いて、アスカが姿を現した。 「あ、アスカ。 どうしたの? 具合でも悪いの?」 「・・・るさい・・」 「え?」 シンジはアスカの言った事がよく聞き取れなかった。 「うるさいわよ! バカッ!」 「え!? な、なに? どうかしたの?」  何故アスカが気を荒くしているのか分からないシンジ。 「うるさい! アタシの気持ちも知らないクセに!!」 「な、なんだよ・・? アスカの気持ちって」 「人の気持ちを知ろうともしないクセに!」 「と、取り合えず落ち着いてよ」  シンジは焦る一方である。 「アンタなんてファーストとイチャついてればいいのよ!!」 「ア、アスカが何を言ってるのか分からないよ」 「そうやって誤魔化すんでしょ!?」 「なにを・・・・」  と言いかけたシンジだが、アスカの瞳に涙が溜まっている事に気付き、 絶句した。 「うっ・・・グス・・・、アタシを見てくれないクセに・・・」 「アタシだけを見てくれないクセに・・・・」 「・・・・・・・・・・・。」 シンジは黙って聞いている。 「アタシを抱き締めてもくれないクセにっ!!!」 「!!」 シンジはその言葉に目を見開いた。 「・・・グスッ・・・お願いだから・・・アタシを見捨てないで・・・、 ・・・ママみたいに・・・アタシを捨てないで・・・」 「アスカ・・・」 シンジは、ユニゾンの時の、最終日の夜を思い出した。 あの時アスカは、涙を流しながら・・・「ママ」と寝言を言った。 きっと、今言った様な事を、夢で見ていたんだろう・・・。 「ゴメン・・・、アスカの気持ちに気付いてあげられなくて」 「知らなかったんだ。 いや、アスカの言う通り、知ろうとしなかった。 アスカが僕に好意を持ってくれてるなんて」 「僕は、好きと言う事がどう言う事なのか分からない。 だから、僕がアスカの事をどう思っているかも、僕自身分からない」 「でも、決して失いたくないと思っている」 「シンジ・・・。」 アスカはシンジの「失いたくない」と言う言葉が、心に染みた。 「それと、アスカは、綾波とイチャついてればいい、って言ったけど、 綾波とそう言う関係になるつもりは無いよ」 「綾波は・・・、何て言うのかな。母性としての憧れと言うか・・・。 そう言う、何か特別な感じなんだ」 「・・・・じゃあ、アタシは?」 「え・・?」 「ファーストがシンジにとって母性としての憧れなら、シンジにとってアタシは何?」 どうしてもそれを聞きたいアスカ。 「・・・分からないよ・・・・。でも、家族と言う言葉だけでは語れない存在だと思う・・・」 「・・・さっきも僕は好きと言う事が分からないと言ったけど、分かろうとすることは出来るし、 結果、分かるようになるかもしれない」 「だから・・・・・・!?」 その続きを言おうとしたシンジだが アスカがシンジに抱き付いたため、言えなかった。 「好きが分からないなら、アタシが教えてあげるから・・・」 「・・・・だから、さ。シンジも、アタシを捨てないで。 アタシだけを見て。」 「・・・・アスカ・・・・」 コクン シンジは頷いた。 「僕はアスカを絶対に見捨てない、そしてアスカを・・・アスカだけを見続けるよ」 ギュッ シンジはアスカを抱き締めながら言った。 「シンジ・・・」 「・・・やっと、抱き締めてくれたわね・・・」 「・・・うん」  シンジ、アスカ、共に微笑んだ。 「この手・・・」 「ん?」 「抱き締めて離さないでね、ずっと」  アスカはシンジの胸に顔を預けて言った。 「分かってる。離さないよ、この先ずっとね」 「ありがとう、シンジ」 「どういたしまして」  この時、二人は、とても綺麗な笑みを浮かべたのだった。 Fin
あとがき アニメ15話からのサイドストーリーを書いてみました。 タイトルの「抱き締めても」は、アニメ第22話でのアスカのセリフ、 「抱き締めてもくれないクセに!」を使いました。 この言葉が、アニメでアスカが言ったセリフの中で一番印象に残っています。 でも、短いなあ・・・。
[戻る]