EVANGERION GAIDEN:A live in night
著者:<える>
prploge
ウ〜、ウ〜〜
真夜中に響くサイレンのもと、第3新東京国際空港周辺は厳重警備体制にあった。
走るパトカー、道路を遮る特殊部隊、そしてそこかしこのビルにはその一帯を埋め尽くさんばかりの武器、武器、武器。壁から突き出たトマホークに始まり、個人の手にはショットガン然り、ウージーサブマシンガン然り、イングラムM10然り。これだけの火力があれば月だって吹っ飛ばせるだろう。たとえゴジラが来たとしても一瞬の内に蹴散らしてしまうのではないかと思えるほどだった。いやまぁ本当にゴジラの世界で考えるとしたらどれだけの兵器を使ったとしても無力化されるのがオチだが。
世界を滅ぼしかねない武力が街を覆い隠し、報道のマスコミは押しかけ、見送りの一般客に入る余地がない。別にどこかの国の王族クラスのVIPの来日があったり、いつぞやのように非公開組織の人造人間に対抗しようと作られたロボットのお披露目があるはずが、ない。その割りにあまりにも非歓迎的だし、尊重されるべき人間も機械もこの場には存在しない。
いや待て、いることにはいる。これほどの人間が密集する中で、その中心たるこの空港内にはほとんど人がおらずちらほらと怪しいいでたちの奴が右往左往するばかり。そのとあるジャンボジェット機のファーストクラスに、この場にそぐわぬシャギーの青色の髪の女性と、金髪の女性がいた。流れるような髪、透き通るような白い肌。黒いサングラスをかけているため見えないが、そこには光り輝く瞳があるはずだ。彼女達こそ世界におけるVIPとも言うべき人材だった。
二人は縄で縛られていた。顔は青白く、足はけして曲がってはいけない方向に曲がっている。
さて、そろそろ賢明な読者には『馬鹿まじめにここまでのただの文の羅列をひたすら読んでいたとしたら』理解できるかもしれない。今、この世界に誇る最高峰の先進都市である第3新東京市では人質拉致立て篭もり事件が起きていた。
「はぁ・・・まったく」
ガツッと手に持っていたM9(通称マギーちゃん)を乱暴に叩きつけた。長年愛用している銃をこうして扱うとはただごとではないと彼女の部下の日向は思う。実際、三十路をとうに過ぎ、体力もかつてに比べれば極度に落ちた彼女にはこの事件は面倒すぎた。家では最近浮気しなくなり、なかなかの良夫となった亭主、加持リョウジが暖かい料理に、その脇に『えびちゅ』を三本、もちろん特大サイズの大ジョッキをビンごとキンキンに冷やして置いてくれているだろう。
いやまぁ、誰が見ても立場が逆だと思うだろうが、あの事件以来畑仕事に異様な情熱を見せる彼にまた汚いスパイ家業をさせるわけにはいかず、もっぱら自分が出稼ぎにでているという家庭状況とあいなった。
ゴクリ、とそのえびちゅの刺激的なノドゴシを想像して唾を飲む。そのイメージに一刻も早く帰ってしまいたい衝動に駆られた。さすがにいくら自分とはいえそれは許されないだろうと自粛したが。
それに私にはもう子供もいるのだ。齢3歳となる愛娘に顔を覚えられていないという馬鹿げた状況を作るわけにはいかない。実際、この間長期の出張を終え一番に娘の顔を見て言われた言葉が
『よく家に遊びに来る面白いおばちゃん』
だった。聞いた瞬間タラリと垂れる冷や汗。はっきり言って突き付けられた現状は笑えない事態へと突入していた。確かにこの家庭環境では仕方ないのだけど。ただ、こういった場では子供から出る言葉は「よく家に来るおじちゃん」であって、けしておばちゃんであっていいはずがない。それからというもの、かつて世界の危機を乗り越えたあの時期よりもさらに仕事に精を出して、定時には家に帰り『えびちゅよりも先に』まず娘に会って「ママですよぉ、私がママですよぉ。覚えまちたぁ?」と幼稚言葉で諭すのが日課となっている。もちろんこれだけは仕事場には絶対秘密だった。
さて、そんなわけで家に帰りたいのは山々なのだが・・・。どうしたものか。この現状を前にできることと言ったら。彼を読んで事態を託す以外に方法がない・・。また彼に厄介ごとを任せるのが我慢ならない。それだけがさっきの苛立ちの原因だった。けっして『早くえびちゅが飲みたい』からでも、『娘に母親としての自分を忘れられるのが怖い』からでもなかった。
「なんでまた・・・世界は彼に重荷を負わせるのかしらね。もっと平穏の生活を送らせてあげればいいのに」
「仕方ありませんよ・・・。彼には僕たちにはない能力がある。それが役立つのなら、人のためになるなら彼は惜しみなく協力をしてくれますから」
口からでた愚痴に部下の日向が答えてきた。
「仕方ないですって・・・!?冗談じゃないわよ、もう彼には何一つ辛い思いをさせるべきではないのに」
「・・・・すいません、失言でした」
「いえ、いいのよ。いくら私が否定してもそれは事実だわ。また彼の優しさにつけこんでこの事態の収拾を任せようとしている」
「僕達の無能さが、結局彼の重荷になってしまうんですね」
彼にも後ろめたい気持ちがあるんだろう、すっかり沈んだ表情で手元にあるライフルに目を落す。
「そうね・・・。はぁ、私もそろそろこの仕事から手を引こうっていうときに」
まだまだ場を任せられる人材がいない、と頭痛をとんとんと軽く手で叩いて和らげる。
「えっ・・・?」
どうにもその言葉が意外だったのか、呆けた顔でこっちを見ていた。まったく、いつまでも自分がこの場にいるとでも思っているのだろうか。もうすでに・・・いや、いい歳なのだからすぐさま自分の仕事場の荷物を片付けて机にもうしたためている手紙を置いてもいいのに。それができないのはもちろん自分の代わりがいないからだった。
「なんでもないわ・・・さて、そろそろ彼が着くころよ」
ブゥゥン、ブゥゥンとあのヘリ特有の音波を出して、ゆっくりとこのビルに近づいてきた。私達も彼を迎えようと屋上へと向かう。そこは廻るプロペラの余波で風が踊り、砂埃が宙に舞っていた。
まだ空中数十Mにあるヘリから、彼はとんっと重力を感じさせず降り立った。初めてあったころから脅威的な成長を遂げた彼の名は、もはや世界中に知れ渡るところとなる。
「久しぶりね、シンジくん」
「ええ、ミサトさんこそ相変わらずお元気そうでなによりです」
暖かい微笑みを浮かべ、彼はこちらに近づいてきた。大人びた風情の中に今だあのころの決意を携えて彼は生きているのがありありと目に見えた。
「日向さんも、お勤め御苦労さまです。ミサトさんのバックアップは大変でしょう。そろそろ他の人と代わってもらった方がいいんじゃないですか?」
「いや、これは僕にしかできないことさ。あまりに過酷すぎて他の人には絶対にかわれ・・・・げほっ」
「日向くんが何か血迷ったことを言ってるけど、気にしないでね。じゃあそろそろ説明を・・・って」
突然、彼女の動きが止まった。シンジの方を上から下までじっと見る。
「何かおかしいところでもありますか?」
と、さっきまでのやりとりに苦笑していたのだがその様子に幾分訝しげに自分の体を見渡す。
「いえね、ここは一応戒厳令下にあるんだからその格好は」
幾分頭痛のする頭とまたとんとんと叩いて、彼に言った。今の彼の格好は、まぁたしかに大学の城下町などでは一般的で、むしろセンスがいいとでも言われるような格好であった。上は黒のTシャツ、羽織ったカットシャツから見える十字架のネックレスはもちろん目の前にいる姉こと現在加持ミサトからの贈りものだった。下はシックのジーパン。濃い目の色に合わせたチェーンはなかなか際立っている。
ただ、そういった格好がこの場、スーツやそれぞれの会社の制服、警官服などなど、しかも武器だらけといったところでかなり浮いてしまうのは仕方がなかった。彼だってもう少し時間と説明があったならそういった場に合う服も着てきたのだがいきなりだったためこのような状況になってしまったのだった。
「そう言わないでくださいよ。僕だってあの二人が捕まったって聞いて夕御飯の用意も途中にして駆けつけたんですから」
「えぇ、分かってるわ。シンジくんには感謝しても感謝しきれないもの」
「じゃあとりあえず今回の状況説明、お願いできますか?」
「そうね。でも今回は本当にどうしようもない状況よ?ただでさえ空港は『本来なら』テロ対策としての設備があって、それを逆手に取られているの。しかも彼女達が捕らえられているのが・・・」
こうして、詳しい説明が始まった。まぁ数年まえの彼女を知っているものならちょっと驚く状況だった。自らここまでしっかりとした説明ができるなんて・・・・てな感じで。
これから始まる闘争。緊迫した状況の中、国家警察、また軍でさえお手上げというこの事件にただひとり解決できるという青年は・・
「早く助けないとまた二人にごねられるよ・・・」
いたってのんきだった。
TO
BE CONTINUED...
後書き
さて、初のアクションものに挑戦しました。と言ってもまだアクション場面はありませんが(汗。
後書きを書くのは今回だけになりますね。・・って、連載なんてして大丈夫なのか自分。ま、まだ間に合うぞ!
引き返すんだっ!・・・投稿している時点でアウトですね。
続きは期待せず<をい! アクションにも期待せず<だからをい! 長い目で見てやってください。
<える>さんより投稿小説を頂きました〜。<える>さん初のアクション物ということで、これまた期待十分なSSです。
既にあの二人の足があらぬ方向に曲がってるところなんかは、さすがは有名ダーク作家!(失敬!)
次回はいよいよアクションシーンでしょうか!? シンジがどんな活躍を見せるのか、凄く見応えがありそうな感じになりそうです。
ご投稿、ありがとうございました。
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