「・・・・・・・なんですか、これ」
「見て分かるだろう?」
「いや、そうじゃなくて」
「君が自分の目で見たこと、それだけが真実だ。」
「そんなことを聞きたいんでもなくて」
「目に映るものがすべて真実だとは限らない」
「さっきと言ってること、違いますよ」
「・・・・とにかく、これは俺から君への、心からの餞別だ。受け取ってほしい」
そういって、加持さんはお土産をおいて出ていった。
使徒戦を終え、いま日本に四季が戻り
雪が降る季節がやってきている中で
「・・・・・冬だよ、今」
加持さんは、スイカを僕にプレゼントしてくれた
記念投稿SS専用食べ物シリーズ第参弾
『冬に咲く紅い花』
「と、いうわけで・・・・加持さんからスイカもらったんだけど」
ここは葛城家である。
アスカと綾波が同居していて、いくぶん狭く感じるこの家。
改築をせがんではいるが、ミサトさんが無駄遣いをやめないかぎり無理っぽい。
「スイカって・・・ウォーターメロンでしょ? あれって冬の果物だっけ?」
「西瓜は、夏が旬。」
アスカの疑問に、綾波が答える。
夏といえばスイカ、という風にも考えられるほど間違いようのない関係だ。
「加持さん、これどこで手にいれたんだろう・・・。」
「品種改良とか、ビニールハウスじゃないの?」
「でも加持さんだよ?スイカに命賭けるとか言ってるのに、旬を外してまで作るかな?」
「・・・どんな環境でも作れるように、研究したものの試作品というのは?」
ゾクッ
綾波が言った言葉にいくらか思い当たることがあって、寒気が走った
「加持さん、前にリツコさんにスイカの品種改良のことで相談してなかったっけ・・・」
「ま、まさかぁ・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
部屋に沈黙がただよう
言い知れない不安と、それを立証できるだけの確かな証拠があるだけにそれは現実味を帯びていた
「た・・・食べる?これ」
「命の危険を感じるんだけど・・・」
「・・・赤木博士の試作品である確率は、低いと思う。」
綾波が否定した。
なにか理由があるんだろうか? 彼女は、赤木博士とは親しい方だし、気付いたことがあるのかもしれない。
スイカをごろごろと回し、いろいろさすって見る。確かに特に妖しい様子はないけど・・。
「赤木博士の作ったものなら・・・どこかに、赤木ジルシが入っているはず」
「あ・・・・赤木印ッ!?」
「なに、リツコってそんなもの入れてんのっ?」
「私たちのプラグスーツにも入ってたわ。」
ガタッ
急いで立ち上がり、棚にしまいこんだプラグスーツを取り出す。
一見そんなものはないように見えるけど・・・?
「どこに赤木印が・・・?」
「服の裏地の、指先」
スーツをめくり、指先をぐいぐいと押し出してみた。
そこにあったのは・・・
「・・・・・なんで、こんなところに・・」
まがうことなく、丸で縁取られた赤木印だった。
「私のはドイツ製だからないみたいね。」
アスカも気になったようで、自分のプラグスーツをまじまじと見ていた。
しかし・・・これを見つけた綾波の洞察力?には驚いたな。
もし綾波に恋人ができたら・・・う、ちょっと同情する。
「てことは、僕たちはリツコさんの実験台にされたわけじゃないんだ。」
「安心して食べていいってことよね・・・?」
まだ不安が拭えないためか、アスカはスイカをつんつんと突っついた。
「と、とりあえず切ってくるよ。」
僕は人の頭ほどもあるスイカを抱え、台所へ向かった。
「あ、ちょっと待ちなさい。」
「なんだよアスカ。結局食べないの?」
「いや、そうじゃなくてさぁ・・・。」
何を考えているんだろう?
アスカは綾波とごにょごにょと何やら話していた。
「どうするのさぁ。」
少しじれて、催促の声をかける。
「んー、普通に食べてもいいんだけどさ。前からやりたいことがあったのよね。」
「私も、やったことないから。」
「なに、それ?」
疑問に思った。スイカでやることって何だよ、一体。
―――――そう考えたのだが、そういえばスイカでやる特別なことと言ったらひとつしか浮かばなかった。
「それはぁ・・・」
「ごめん、やっぱり却下。」
「えぇっ!?まだなにも言ってないわよっ!」
「・・・碇くん、ひどい・・。」
二人から非難の声が出た。
が・・・・
「無理に決まってるじゃないか。スイカ割りなんて」
「よくわかったわね、バカシンジのくせに・・・・」
そりゃあ、スイカで遊ぶことって言ったらそれくらいしかないから。
だけど、スイカ割りっていうのは夏、砂浜とかでやるものであって
・・・決して、冬、家の中でできるもんじゃない。
「ねぇ、やろうよぉ。」
「碇くん、お願い・・。」
少し上目遣いでねだる二人。
心がぐらつくのがわかる・・・・・だけど、ここで許可したって、困るのは僕なんだ。
「だめ、絶対ダメ。
ていうか、やるったってどこでやるのさ。それに一個しかないんだから割ったら食べられないよ?」
「「ぶぅー・・・」」
ぶすくれてはいるが、納得してくれたらしい。
改めて、スイカを台所に持っていった。
「えーっと・・・八等分でいいかな。とりあえず半分だけ切ってそれを分けよう。」
ミサトさんも帰ってきたら食べるだろうから・・・
ザシュッ、スパン
ゴローン
「・・・・・・・・あ、妖しいところは、ないよね。」
実を言えばまだ少し怖かったのだが、切ってみると中からは真っ赤な果肉と黒い種が姿を現した。
半分に切って、片方はラップに包んで冷蔵庫に入れる。
残りを四等分して、そのうち三個をそれぞれ皿に乗せた。
「はい、お待たせー。」
「碇くん、早く。」
「待たせんじゃないわよ、とろいわね。」
・・・・・・き、気にしないことにしよう。
二人に切ってきたスイカを手渡す。
すると、アスカが僕と綾波をじっと見て、疑問を口にした。
「あれ・・・あんたら、なんで塩なんて振りかけてんの?」
「え・・・?」
僕の右手には、塩入れ。
綾波はもうすでに多少の塩を振りかけ、控えめにかぶりついていた。
「なんでって・・・普通、塩かけない?」
「えぇーーーっ!?だって、スイカって甘いからおいしいんでしょっ!?
ていうか果物に塩かけるのっておかしいし。」
「うーん・・・」
「・・・塩を振りかけることによって、スイカの甘味が引き立ち普通よりもおいしく感じるわ。」
悩んでいるところに、綾波が助言をくれた。
そっか、そういうことだったんだ・・・・
なんとなく納得して、改めて塩を振りかけたスイカにかぶりついた。
シャリっ
「んー、おいしい・・・ さすが加持さんの作ったスイカだ。」
種が気になるけど、やっぱりスイカは美味しかった。
さっきの理屈で塩をかけることの意味がわかった所為か、余計に甘く感じる。
シャリシャリと、かぶりついている僕と綾波を、アスカはスイカに手をつけずに見ていた
「アスカ・・・食べないの?」
「んー・・・」
まだ、リツコさんのこと気にしてるのかなぁ・・・
「早く食べないと、あったまってまずくなっちゃうよ?」
「んー・・・・・」
何をいっても、うなるだけで、具体的に返事が無い
「・・・塩、かけてみたいの?」
綾波が塩をアスカに差し出す。
そういうことだったのかな?
「・・・んー、でも、なーんか気が進まないのよねぇー」
綾波から塩を受け取るも、アスカはまだそれを手に持つだけでかけようとはしない。
「じゃあ、とりあえずかけないで食べてみたら?また今度、夏になったらスイカもたくさん食べられるんだし。」
「んー・・・・」
そう言ってみたが、それでもまだ悩んでいるようだった。
そうこうしているうちに綾波は自分の分を食べ終わってしまい、アスカの方を見ている。
「んー・・・・んー・・・・・・」
スイカと塩を交互に見つめ、うなり続ける。
そんなに深刻なことでもないんだろうけど・・・・
「はぁ・・・じゃあさ、僕のがまだ少し残ってるから、これをちょっと食べてみなよ。それで決めたらいいんじゃない?」
我ながら、ぼちぼちの提案だと思う。
僕のは、もういくらか食べてるから塩の味もそこまでしないだろうし
まぁ食べかけだから、嫌といえば嫌かもしれないけど・・・
そう思って差し出すと、考えたとおりアスカはちょっと戸惑っていた
「あ、やっぱり食べかけじゃ嫌かな?」
「そ、そうじゃなくて・・・」
手を伸ばしかけて、やっぱり引っ込める。
違うなら、なにがダメなんだろ?
なにやら顔を赤くして、アスカは少し躊躇いながらスイカを手に取った。
「あぅ・・・た、食べるね。」
僕が渡したスイカに口を着けた。
もう、顔を真っ赤にして、かなりゆっくりとスイカをかじる。
部屋・・・暑い、かな?暖房はそんなに強くないんだけど・・・
シャリ、シャリ・・・
「美味しい・・・・」
「でしょ?やっぱり塩をかけたほうがいけるよね」
自分で勧めてみただけに、喜んでもらえると結構嬉しい。
思いのほか、アスカは僕のスイカを気に入ったようで、残りの果肉をかじっていた。
「・・・アスカ、ずるい。」
「あによ・・・いいじゃん、シンジからくれたんだもん。」
ずるい・・・?
「なに、綾波まだ食べたりなかった?まだスイカ一切れならすぐに食べれるから・・・」
そっか、そういえば綾波すぐに食べ終わっちゃったもんな。
綾波って小食だからそれ一個で足りると思ったんだけど・・・
そう考えて、立ちあがって冷蔵庫からもっと来ようとすると、二人は僕を多少じと目で見て止めた。
「碇くんのバカ・・・」
「はぁ・・・まったく。こいつも相変わらずよね・・・」
「へ?」
なんなんだよ、一体・・・スイカが足りないんじゃなかったのかな?
「まぁ、いいわ。まだちょっと残ってるから譲ってあげる。」
アスカは、僕が渡したスイカの食べかけを綾波にアスカに渡した。
「アスカ・・・上の方、ほとんど食べてる。」
綾波は恨めしそうな顔をして、アスカを見ていた。
「不満があるなら、食べなくてもいいのよ?」
だから、新しいの出すって言ってるのに・・・・
僕には理解できないところで、話しが進んでいた。
「いい、食べる・・・・」
多少、残念そうな顔をして綾波はアスカからそれを受け取り、残り少ないそれを食べ始めた。
「はぁ・・・じゃあ、アスカのスイカ。食べないんなら冷やしておくから貸して。」
「あ、うん。お願い。」
「・・・おいしい。」
スイカなら、さっき自分の食べてたじゃないかぁ・・・
まったく、理解できない。
それからしばらくして、綾波もそれを食べ終わり、僕はお皿を洗いはじめた。
「それにしても、あれよね。やっぱり私は塩はかけないで食べたほうがいいわ。」
リビングの方から、アスカの声が聞こえる。
「えぇー・・・なんでさぁ。」
「なんか、甘さとか自然でいいのよ。塩をかけると確かに甘いけど、なんか不自然じゃない?」
「私は・・・塩をかけたほうが、好きだけど。」
僕も・・・塩をかけたスイカの方が好きなんだけどな。
「なんだよ、さっきアスカだって僕が渡したやつ、おいしいって言ってたじゃないか。」
ちょっと不満げにぼやく。
「あ・・・あれはぁっ」
「あれは?」
「・・・・・・な、なんでもないっ!!」
突然大声を上げて、アスカは急に黙った。
「もう・・・なんなんだよ、一体。」
「碇君の鈍感・・・」
「え?」
綾波が、小さな声でなにか呟いたが、聞き取れなかった。
「あいつ、わざとやってんじゃないでしょうね・・・だとしたらとんだ食わせもんだわ・・」
「違う、碇くんは天然・・・」
むぅ・・・
キュッ
洗いものが終わり、水道を閉めた
「さて、加持さんにはお礼言っとかないとね。」
「スイカ、おいしかった・・・」
「疑ったお詫びもしたいし、いいんじゃない?」
僕は家に置いてある電話の受話器を取って、加持さんにかけた。
トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル・・・・・
「んー・・・・あれ、かかんないな・・」
「話し中?」
「いや、出るのが遅いんだと思う。作業中かな?」
相変わらず、電話からは例の着信までの音しかしない。
「あとでかけ直したら?碇くん。」
「いや、でもこういうのはすぐに言った方がいいと思って。」
トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル・・・・・カチャッ
「あ、出た・・・」
『シンジくんかっ!? 俺はもう最期かもしれないッ!』
「・・・は?」
急に、加持さんはなにを言っているんだろう・・・
声に混じって、ドカーン、とかボカーン、とか爆発音が聞こえ、加持さんは息を乱していた
『はぁ・・はぁ・・・くそっ、まさかこんなにも火力を持っていたなんて・・・ッ』
「ど、どうしたんですか? なんか騒がしいところにいるみたいですが・・・」
なにやら尋常ではない雰囲気を悟り、問い掛ける
『今日、俺が渡したスイカがあっただろうッ!!?』
「あ、はい・・・」
『あれは、俺が内密に育成した寒さに強いスイカなんだ。』
「はぁ・・・・」
それが、一体なんだっていうんだろう・・・
『だが、とある人にどうすれば更に美味しく、
またスイカ自身の甘さを引き立たせたままで耐寒スイカを作れるのか相談したんだが・・・』
なんとなく、誰かは想像できた
リツコさんだな・・・たぶん
でも、それと今の状況になんの関係が?
疑問を持ちながら、僕は聞いていた。
加持さんの話しはまだ続く。
『だが・・・その人はっ、こともあろうにこう言ったんだっ!!
「スイカに塩を振りかけるように、最初から多少の塩分を含有させればスイカの甘味を引き立たせられて、
かつその塩分を工夫すれば水分の割合も調整できて寒さに強いスイカができるわ。
私にも興味深い実験だから、特別に手を貸してあげる。
ちょうど私が開発した、耐水酵素含有NaClがあるから、それを使いましょう。
・・・・もちろん・・・・NOとは、言わないわよね?」
てなっ!!!』
「・・・・・・はぁ。」
『冗談じゃないっ!スイカに塩をかけるなんて邪道にもほどがあるっ!!
元来、果物というのはそれ自体の甘さが尊いのであってそれに手を加えるなどあってはならんことだ。
かの茶道で有名な千利休は、招待された先で出された砂糖づけのイチゴを見て、
あなたは私と席を共にして語るに足る人物ではないようだ、と言ったという。
すなわち果物にかかわらず、それ自体持っている良さに不必要な手間を加え害するということは許されないっ。
だが、その人はすさまじいまでの火力と、『秘密兵器』とかなんかで俺を脅してきた・・・・』
「あのぉ・・・」
『だから、俺は彼女に強制的に作らされたスイカを彼女の目の届かないところで密かに葬り、そして彼女の意思により
君たちに食べさせるはずだったそれと、俺が大切に育て、やっと成功したたったひとつの耐寒スイカをすりかえて
君に渡した訳だッ!!』
「あ、あの、申し訳ないんですけど・・・」
『なんだ、シンジくんっ!もう俺にも残された時間は少ない、できれば必要なこと以外は・・・」
「はぁ・・・。」
じゃあ、言わない方がいいかなぁ・・・
そう考えて、僕は言うのをやめた。
ドカーン、ボカーン、ドカーン・・・・
相変わらず、受話器からは爆発音が聞こえる
『くっ・・・くそっ、もう逃げ場はないのか・・・。
俺はここまでのようだ・・・はぁ、はぁ・・・
最後に、君たちに俺の大切なエミリーを食べてもらえて・・・良かった・・』
す・・・スイカに、名前を付けてるのか・・・
「か、加持さんっ!?」
『う・・・がはっ! ダメだ、内臓をやられたか・・・。
だが、悔いはない・・・スイカの尊厳を守り、一生を終えることができたのだから・・・』
「し、しっかりっ!まだ加持さんに面と向かってスイカのお礼を言ってないのに・・・」
『ふふふ、加持君。逃がさないわよ・・・?
この私の傑作を、こともあろうに叩き割ってドブに捨てるなんて・・・
誤魔化したってわかるのよ?なんたって、私の作品には赤木印が入っているんだからっ!
殺しはしないわ・・・私の実験材料として、手伝ってもらおうかしら?
あなたのスイカ作成技術はなかなか目を見張るものがあるし、スパイ能力や知識もね・・ふふふふひ・・・』
後ろから、リツコさんの声が不気味に響いてきた
スピーカーで話してるんだな・・・・きっと
『ふざけるなっ!俺は、スイカを冒涜するくらいなら死を選ぶっ!』
ダァー―――――ン
『あ・・・う、ぐあぁあ・・・・っ
・・シ・・ンジ・・くん・・・君は強く生きろ・・・
決して、スイカに塩をかけるような非人道的なことを強制されたとしても・・・
それを跳ねのけることができるような・・・げほっ・・・強い・・人間・・に・・・・』
「か・・・加持さーーーーーんっ!!
僕・・・ぼくっ・・・っ!!」
『な・・なんだい・・・・もう・・俺は長くない・・・最後に、君の声を・・・聞かせてくれ』
「僕・・・・・・・・加地さんからもらった耐寒スイカに・・・・・・」
「あぁ・・はぁ・・はぁ・・・エミリーに・・・・?」
「塩をかけて・・・食べちゃいました」
『・はぁ・・はぁ・・・・・え?・・・な、そんな・・・・ッ』
「綾波も、塩をかけるのが好きだったみたいで・・・美味しかったですよ。すごく」
『そんな・・・・そ・・・んな・・・・・・・・・』
「だから、それを言っといたほうがいいかなぁなんて・・・すいません、生死の際に言うことじゃなかったですね・・・」
『嘘だ・・・そんなの嘘だろ・・・・』
「あ、リツコさんに言っておいてください。耐寒スイカを作っても、赤木印のは食べませんよって・・・
・・・加持・・・さん?」
『う・・・う・・・・う・・・・・・・・』
「う?」
『うおぉぉっ! エミリィぃぃぃいいーーーーっ!!!』
そして・・・冬に、スイカの果肉のように紅い花が咲いた。
Fin ....
AND EPILOGUE (あったかもしれないこんな後日談)
「ほら、碇君。早く家を出ないとネルフに間に合わないから・・・」
「あ、うん・・。ちょっと・・・靴ひもが絡まっててほどけないんだ。先行っててくれないかな?」
「ううん、待ってる。」
「ごめん・・・」
そうは言っても、焦る気持ちの所為かなかなかほどけなかった。
なかなか上手くいかなくて、作業が雑になる。
そして、強く引っ張った所為だろうか・・・・丈夫な靴ひもが、中心からまっぷたつに切れてしまった。
「あぁ・・・だめだね。他の靴にするよ。」
「う、うん・・・」
下駄箱から、もう一個のスニーカーを取り出して履く。
靴ひもは絡まってはいなかったので、すぐに履いて家を出た。
だがそこに一人の男が立っていて足止めされる。
「あの・・・なんですか?」
「ペリカン便です。お届け物を配達にあがりました。葛城さんのお宅はこちらで間違いないでしょうか?」
あ、宅配便か・・・
また玄関に戻り、靴を脱ごうとした瞬間
ひもがプツンと切れた
「あ・・・もう、なんなんだよ・・・」
とりあえず靴の方は後回しにして、ミサトさんの机からハンコを持ってくることを優先した。
「はい、じゃあこれで。」
「ここに押していただけますか?・・・はい、それで結構です。ありがとうございました。」
宅配便の男は丁寧にお辞儀すると、そのまま去って行った。
残されたのは、男が持ってきた荷物と、それについていた付箋だけ。
「んー、誰からだろ・・・リツコさん?」
「赤木博士から?」
「うん、そうみたい・・・って、これ僕宛てじゃないか。なんでだろう」
ミサトさんにじゃないのかな?
疑問に思ったが、とりあえず中になにが入っているか確認する。
「えぇーと・・・配達した日は、昨日か・・。中身は、スイカ?」
「またスイカ?」
まだ一月なのに・・・前の、加持さんの耐寒スイカじゃあるまいし、流行ってるのかな?
そういえば加持さんと最近会わないなぁ・・この前のあれ、マジだったのかな?
あれ、でも・・・差出人・・・
「あ・・・」
―――――ゾクッ
言い知れぬ恐怖が僕の体を走った
「な、なんか嫌な予感がする・・・」
「私も・・」
「と、とにかく開けてみよう。」
「うん・・」
奥から大きなはさみを取り出してきて、ガムテープを切り裂いた。
中から出てきたのは・・・
「あ・・・・紅い、スイカ?」
「これ・・・ここに、赤木印が入ってる。」
丸く縁取られた独特の赤木印が光る
それは、モノの見事に真紅に染まりきったスイカだった。
毒々しいまでに色鮮やかで、まるでそれは・・・いや、言うまでもなく。
「碇くん、付箋あるけど読んでいいかな・・・?」
綾波も、僕と同じような、鈍い恐怖を感じ取ったようだ。
いくぶん顔が青ざめ、僕に不安げな視線を向ける。
「う・・・うん、お願い・・・」
僕には、もうそれを読む元気はなかった。
綾波は、その付箋の端を丁寧にさっきのはさみで切っていき、なかから一枚の紙を取り出す。
上から、視線が徐々に下にいくにつれ、綾波の顔が青ざめていった。
「あ、綾波・・・手紙にはなんて?」
問い掛けるが、綾波は応えなかった。
なにが書いてあったというんだろう。
「ちょっと貸してっ!」
慌てて手紙を奪って読み始めた。そこには女性らしく丁寧な字で、紅い便箋に文字が書かれていた。
『シンジくんへ
加持くんと一緒に作った寒さにも負けないスイカを送ります。。
味と安全の方は、試食したあとなので心配ありません。とても甘く、美味でしたよ♪
もうそのスイカには塩分が含まれているので、塩を振りかける必要はありません。
そのまま、直に食べてみてください。
あぁー・・・そうそう、中を切ると、多少濃い果汁が流れると思いますが気にしないでください。
それは――――――――― 』
クシャ
そこまで読んで、僕は手紙を雑に閉じた。
もうこれ以上下を読む元気がなかったからだ。
鼓動が早まるのを感じた。
なにかとてつもなくやばいことが、進行している気がする。
「と、とりあえず・・・ネルフに行って、リツコさんに会ってみよう・・・」
僕は綾波の反応すら見ず、早足で駆け出した。
なにが・・・なにがあったんだろう、加持さんの身に
強制的に、また耐寒スイカを作らされているのか?
それともいくらか報復を加えられたりしたんだろうか・・・?
一ヶ月前の、加持さんとの電話が脳裏に映った
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン・・・・
「ちょっと、碇くん待って・・・」
綾波の、制止の声が聞こえる。
でもこの・・言葉にならない恐怖に僕は堪えられなかった。
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・」
電車を乗り継ぎ、そこから走り続けてネルフに着いた。
「・・・行こう、綾波。」
「うん・・・」
いつも通っていたネルフが、今日はどこか禍禍しく見えた。気のせいではないんだろう。
エレベーターが、地下一階、地下二階、地下三階・・・と降りていく。
ピー―――――ン
エレベーターの到着の音が響いた。
「あ、着いたのか・・・・」
そして、ゆっくりと扉が開き・・・・
「あ、人が誰かいる・・・・」
綾波の呟く声がして・・・そして、開ききった扉の向こうにいたのは・・・
「あら、遅かったじゃない。シンジくんにレイ?」
「・・・・・っ!! わぁああぁぁあああああっ――――ッ!!!」
「・・・・失礼ね、人の顔を見るなり悲鳴を上げるなんて。」
「はぁ、はぁ、はぁ・・」
し、心臓に悪い・・・
「あら、その脇に抱えてるのは・・・見てくれたのね、おいしそうだったでしょう?」
「そのことなんですけど・・・」
「ええ、なにかしら?」
「か、加持さん最近見ないんですが・・・どこに行ったか知ってますか?」
「ああ加持くんね。加持くんかぁ・・・知ってるといえば知ってるけど、知らないといえばわからない、かな?」
リツコさんは問いかけのように僕に微笑を向け、言った。
「加持さん・・どうかしちゃったんですか? 過労で倒れたりとか、まさか実験に使われたとか・・」
「レーイ、面白いこと言うのね?」
クスクスと、怒りもせずに楽しそうに笑うリツコさんが余計に怖かった。
心臓が飛び出しそうなほど鼓動が撥ねる。
「そうそう、このスイカなんだけど・・・」
なんだ?加持さんのことじゃなくて、スイカ・・・?
疑問には思ったが、とても無関係には思えずに黙って聞いていた。
「美味しくたべてね?じゃないと加持くんが可哀想だもの。」
「か、加持さん。このスイカにやっぱり関係してるんですか?」
「えぇ、だって・・・・
このスイカは
加持くんでできているんだもの」
え・・・?
その言葉の意味を考えるだけの余裕が、僕たちにはなかった。
いや・・・むしろ、もう答えが出ているだけに、なにも考える必要はなかったのかもしれない。
ドクン、ドクン・・・ドクン、ドクン
「人間の血ってねぇ、塩分がたくさん含まれているでしょう?
だから耐寒スイカを作るのには絶好の材料だと思わないかしら。ねぇ二人とも」
ドクン、ドクン、ドクン、ドクンドクン、ドクンドクン
「そうそう、そういえばもうすぐストックが切れそうだったのよねぇ・・・」
ドクンドクン、ドクンドクン、ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
「やっぱり、若ければ若い方がいいのかしら・・・・さらさらしてて、綺麗だものね。」
「い・・・・
いやあぁぁぁああああああーーーーーーーーっ!!!」
綾波の叫び声がなり響いた。
ネルフの防音壁を破り裂くほどに。
僕はどうしたのかって?
もう・・・・どこかわからない場所に閉じ込められていたんだ。
本当に、Fin ..........
後書き by<える>
Makkiyさん、一万HITおめでとうございます。m(_ _)mペコリ
日ごろお世話になっていて、投稿小説も多くいただいているMakkiyさんにこのSSでもって
多少の恩返しができればなぁ・・と思います。
さて、今回の食べ物のお題はは読んでいただければ分かると思いますが「スイカ」です。
英語でいうならウォーターメロン、漢字で書くなら西瓜です。
え?『季節感無視すんなーっ』ですって?いえいえ、一応それなりに季節感も出してみました♪
これからもサイトの経営、がんばってください。陰ながら応援しています。
<える>さんより、1万HIT記念SSを頂きましたぁ〜。
スイカ・・・、スイカは実は私の好物なんですねこれが(笑
ネタがスイカなだけに、エピローグもスイカの中身みたく、真っ赤になってますねぇ(謎
しかし、耐寒スイカとわ・・・、リツコの作ったスイカだけは絶対食べたくないですね(笑
ホントに人間が丸め込まれてるかもしれないので(爆<微妙に言葉の使い方違う?
ご投稿ありがとうございました、これからもサイトの運営、できるだけ頑張ります。
(できないことはパス(爆)