本当のアスカ
 

その日の夜、ミサトのアパートでは、アスカの引越し祝いとミサトの昇進祝いを兼ねて、パーティーが行われていた。
まあ、パーティーと言っても、ケンスケが勝手にその場で、焼き肉パーティーとか
決めただけなのだが・・・。
「あのーー、コンバンワ。」
ヒカリが来た。
「あ、ヒカリ、こっちこっち。」
アスカがヒカリを呼ぶ。
「なんや? なんで委員長が来るんや。」
トウジが不思議そうにしている。
「あたしが呼んだのよ。 ダサイ男ばっかでムサ苦しいから。」
「特にアンタがね!」
と、トウジに言う。
もちろんこれにはトウジも怒る。
「なんやとコラ!」
そっちのケンカは無視して、ミサトに花束を渡すヒカリ。
「初めまして、洞木です。 あの・・・、お邪魔させてもらいます。」
「いーのいーの。 こうなったら何人来ても一緒よ。」
挨拶を終えるとヒカリはアスカのところへ行った。
「アスカ、ほんとに碇君と住むんだ。」
「そ、作戦上仕方なくね。」
この言葉にシンジは小さく吹き出す。
「ぷ。」 (なにが作戦だよ、ミエ張っちゃって)
それにアスカが気づいた。
「何? 今の笑い。」
「いや、何でも・・・。」
再びヒカリがアスカに話し掛ける。
「ね、アスカ。 加持さんって方は来ないの?
すごくかっこいいんでしょう。」
「加持さんねえ・・・・。」
「この3日間、いつ電話しても留守なのよね。 あたしも会いたいんだけどナ。」
これにミサトがイヤミったらしく言う。
「松代に出張とか言ってたけどねぇ。 今頃、女の尻でも追っかけてんじゃないの?」
ピンポーン 玄関のチャイムが鳴る。
そこに加持、登場。
「よっ、コンバンワ。 あれ? 誰かのバースデイか?」
アスカは、
「加持さん!」
と喜び、ミサトは、
「ゲッ!」
と、顔をしかめている。
だか、一応加持の問いに答える。
「アスカの引越し祝いと、あたしの昇進祝いですけどね、だーれもあんたなんか呼           
 んでませんよーーっ。」
「つれないなあ、せっかく松代の土産持ってきたのに。」
アスカが加持に急かす。
「あたしは? あたしにはお土産ないんですかァ?」
「アスカにはこれ。」
と、加持はアスカにリボンが結んである箱を渡した。
もちろん、これにはアスカは喜んでいる。
「わーい、嬉しい(はぁと)」
「ありがとう、加持さん(はぁと)」
そう言いながら箱を受け取るアスカ。
だが、その様子をただ1人、暗い顔で見ているシンジ。
彼はアスカに片思いなので、さすがにアスカが加持にベッタリのシーンを見て、
心が痛む様だ。
いくら加持は、アスカの事を恋愛対象として見ていなくても、シンジから見れば
アスカは自分に対して完全に、アウトオブ眼中であるように見える。
そんなシンジも最近気になる事がある。
その事を改めてアスカに聞いてみることにした。
「ねえ、アスカ。 前にも聞いた事があると思うけど、アスカってなんでエヴァに乗るの?」
アスカはフン、とでも言いたそうな顔で答えた。
「あたしは、エヴァに乗って優秀な成績を出して、それでみんなに認めてもらう為に乗るのよ。」
改めてそのことを聞いたシンジはこのままではいけないと思っていた。
「でも、それって結局は1人になるのが怖いってことだろ?」
その言葉を聞いたアスカはもちろん感情的になった。
「違うわよ!」
「何が違うんだい? 用は裏切られるのが怖いんだろ? だから誰にも心を開こうとしない。」
「違うって言ってるでしょ!」
アスカはさらに感情を高ぶらせている。
しかし、アスカのその否定する言葉にシンジは耳を傾けない。
「でもそれは逃げでしかない。 本当の自分をさらけ出して、その自分から人が離れていくのが怖いんだね。」
「やめてよ!」
アスカは半分絶叫している。
「君はさっき言ったよね? 自分は人に認めてもらうためにエヴァに乗っているんだと。 じゃあ、本当の君は一体何なんだ?」
「う、うるさいわね。 アンタには関係ない事でしょ!」
「関係なくなんかないさ。」
「うるさいうるさいうるさーーい!」
ついにアスカは回りに状況を忘れて叫んだ。
その後、沈黙が訪れる。
「・・・・・・・・・・・」
しばらくこの沈黙が続き、そして再びシンジが口を開いた。
「でも、他の人が君を、エヴァの、二号機のパイロットとして見ても、僕は君の事を
惣流・アスカ・ラングレーと言う、1人の人間・・・女の子として見る。」
その言葉に、アスカは少し驚いた顔をしていた。
最初にシンジに会ったとき、冴えないやつ、と思っていた男の顔が、今日はいつになく凛々しい。
そう、いつのまにか、シンジはアスカの中で大きな存在となっていたのだ。
もちろんこのことを、本人たちは知る由もないのだが。
「う、うるさいわね、アンタにそんなこと言われる筋合いはないわよ。」
別にシンジの言ってる言葉に筋合いもへったくれもないのだが。
しかしそんな憎まれ口を叩きながらも、アスカの顔はどこか嬉しそうだった。
その表情を見た加持は、彼女、アスカの心の氷を溶かせるのは、シンジしかいない、と思っていた。
「どうだい? そろそろ本当のアスカをさらけ出したっていんじゃない?」
「うるさいって言ってるでしょ!」
ドゴ!
アスカはシンジに向かって殴った。
だがシンジはそれを避けることもなく、その胸で受け止めた、と言うか受け入れた。
流石にアスカは驚いた。
「な、なんで避けないのよ。」
シンジはニッコリ微笑んでアスカに言った。
「やっと、みんなの前で本当のアスカを見せてくれたね。」
はっきりいってこの微笑みは反則とも取れる。
どっかの誰かは「女殺し」とも呼んでいて、まさしく女性を落とすほどの効果がある
笑みである。
アスカは赤くなってやっと自分がシンジを殴ったことに気づいた。
何分、加持とミサトの前で人を殴るのは初めてである。
なので、ミサトはちょっと引いてた。
その様子を見たアスカは、弁解しようとする。
「あ、あの・・・、えーっと・・・。」
最初は少し驚いていたミサトも、
「知ってたわよ、薄々とね。」
それに続いて加持が、笑顔で
「アスカの演技はまだまだ甘いよ。」
アスカは顔を反らして、
「演技なんか、してないわ。」
そんなアスカにミサトが
「アスカ、もう、育ててくれた義理のご両親の前じゃないんだから、ムリしていい子にならなくてもいいのよ。」
アスカは、ハッっとした表情で振り向く。
そんなアスカにシンジはやっぱり微笑んで、
「よかったね、アスカ。 本当の自分をみんなに認めてもらえて。」
「・・・・・・・。」
アスカは黙っている。
「ねえ、アスカ。」
「・・・・・何よ。」
何とかアスカは口を開いた。
「嫌なことがあったらどんどん僕にぶつけてきていいからね。 僕はアスカの全てを受け止めるよ、避けずに、逃げずにね。」
そう、優しくアスカに語る。
そこで作者である私は思いました。も、もしかしてシンジ・・・。アスカを落とす気か!? 
ここまで積極的なシンジは見たことも聞いたこともないぞ!?
「よ、余計なお世話よ・・・。」
照れ隠しと言わんばかりにいつもの憎まれ口を叩くアスカ。
しかし、既に日常茶飯事なので、みんなはアスカが本当は何を言いたいのかは
分かっている。
ニコ。
そんなアスカにシンジは今日最高の笑みを見せる。
「シンジ・・・・。 ありがと。」
アスカは聞こえないくらい小さな声でシンジに御礼を言った。
その時、2人の間には穏やかな雰囲気が流れていました。
 

fin

後書き

え〜、いまさらこんなものを掲載してしまいました。

この小説は、私が一番最初に書いたエヴァ小説でして、それをHTML化してUPしてみました。

今見ても、「なんじゃこりゃ!?」 な作品なのが一目瞭然ですね。


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