――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
魔界にて
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

BY たっちー







俺、悪魔。

最近実につまらないんだ。
人間どもは俺たちのことなんか完全に忘れたのか、誰も召喚しようとしない。
ここ100年で手に入れた魂はたったの1個。それも50年以上前の話だ。おかげで上司――魔王ルシファ
ーだが――の機嫌が悪いこと悪いこと。もっとも、大将も最近の実績では俺と大して変わらんのだがね。ま
あ、おっさんは「私のような大物はそう簡単には召喚できんのだ」とかいう理由(言い訳)を持ってるわけ
だが。

話がそれた。つまらない理由はそんなことじゃない。いや、それもあるが最近特につまらないのは別の理由
なんだ。どうやら最近、天使たちが地上にちょっかいを出し始めたらしいんだ。そう、人間どもが使徒とか
呼んでるアレさ。
奴らの正体は下級天使なんだ。人間どもは進化の可能性だとか何とか的外れなことをほざいてるようだがね。
考えても見ろよ。天使と人間は材料の違いはあるにしてもどっちも神が自分に似せて創ったモノだぜ。でも
って、俺たち悪魔は堕天使とも呼ばれるように――堕落してるのは俺たちじゃなくて神に唯々諾々と従って
る天使の方だと思うがね――元々は天使だったわけだ。その天使と人間の構成パターンが似てて当たり前だ
とは思わんかね?

そもそも地上とそこに住む人間の魂ってのは俺たちと天使どもの争奪の対象だったんだよ。大昔の大戦で両
軍ともに直接は地上に侵攻しないという協定が結ばれたせいで、人間から呼ばれない限り地上には行けなく
なっちまったんだがね。しかも人間ども、信仰心なんてモノがなくなってきたから、誰も俺たちを呼ぼうと
もしねえ。

っと、また話がそれた。天使が地上に現れだしたって話だったな。奴らの行為は明らかに協定違反だからな。
俺はルシファーに訴えたんだよ。「俺たちも地上に侵攻しましょう」ってな。ところが大将、何考えてんの
か、言を左右にして許可をくれないんだな。ベルゼブブとか、アスタロトも「ルシファー様には何か考えが
あるのだろう」とか言ってやがるしさ。堕ちたもんだね、悪魔も。

それとも、俺の知らないところで何か手を打ってるのかね?俺みたいな下っ端には教えられないとか・・・。
それはそれで面白くないな。

結局、俺は仕方なくいつも通り、地獄にやってきた魂(俺たちに魂を売る人間は少なくなっても、自分の欲
望に正直な奴は地獄にくるのさ)の誘導なんていう退屈極まりない仕事を内心は不平たらたらでやっていた。
何で内心かというと口に出して上司の耳に入ると給料に響くからさ。悪魔の世界も大変なんだよ。


そんな毎日を送ってた俺の元にある日、妙な魂がやってきた。その日の俺の仕事は地獄の交通整理じゃなく
て、まだ天界に行くか地獄に行くか確定してない魂の誘導係だったんだがね。
どこが妙かというと、その魂、まだ肉体とつながりがあるんだな。いや、正確にいうと一度切れたのにまた
繋がったというか、とにかく妙なんだよ。
ま、細かいことはどうでもいいやな。紛いなりにも生きてる人間が――魂だけにしても――近寄ってくるの
だ。久しぶりに魂を手に入れるチャンスだ。
俺はいかにも悪魔悪魔してる姿(山羊の角に蹄だからな)を人間どもがイケメンとかいってる姿に変えてそ
の魂を出迎えた。

さすがにまだ生きてるだけあって、その姿ははっきりとしていた。普通、死んだ人間の魂はその姿があやふ
やになるものだが。でもって、その魂は少女の姿をしていた。赤い瞳というのは珍しい。けっこういい値が
つくかもしれん。

「あなた、誰?」

「夢先案内人とでも言っておこうか」

そう言って俺は極上の笑顔を少女に向けた。文字通り、「悪魔が契約を迫る時の笑顔」って奴だ。
しかし、少なくとも言ってることは嘘じゃない。代価が魂であることを言ってないだけだ。
ところがこの女、俺のセリフを聞いた途端、クスクス笑い始めやがった。

「わたしの魂を欲しがるなんて無謀ね」

「は?」

「わたしの事がわからないの?」

わからないのって、あんたなんかみたのは初め・・・てじゃない。いや、その姿は初めてだけど、あなたは
リリスの姉御!?

「ようやくわかったのね」

だって、ルシファー様の奥方、魔界の女王が何故に人間の少女に!? 

やばい、やばいよ。この姐さん、ルシファーの大将よりよっぽど怖いんだよ。地上とのつながりは残ってる
んだから、とっとと帰ってくれないかな?
ん? 地上?

「姐さん姐さん、何で地上にいたんです? もしかして、大将が天使の地上侵攻を看過してたのって・・・」

「その辺は、ちょ〜っち教えられないのよねん」

「・・・・・・抑揚のない声でそういう言い方されても」

「教えられないわ。地上で呼んでる人がいる。さよなら」

ちょっと待ってって、あ〜あ、行っちゃったよ。何が起こってるんだ? 何だか気にいらねえなあ。



リリスの姉御がやってきてから数日後――地上の時間ではどれくらいの時間が経ったのかいらないが――ま
た珍客がやってきやがった。

「やあ」

やあ、じゃねえって。いけ好かない奴だな。
だいたい、何で天使が地獄にやってくるんだよ、タブリス? 堕天したわけでもねえのによ。

「友達を騙したからかな?」

はあ? 友達だ? 天使が人間と友達になったってか?

「そうだよ」

で、その友達を騙した?

「そう」

はあ・・・。なんちゅうか、カルチャーショックだね。時代は変わったんだねえ。
まあ、お前さんは昔からちょっと変わった奴だったからなあ。

「ありがとう」

いや、誉めてねーって。まあ、何でもいいや。案内してやるから着いてきな。

「そうはいかないのさ」

はあ? 天使だから地獄には行かないとかぬかすんじゃないだろうな?

「そんなことは言わないさ。ただ、僕はシンジ君の決断を見届ける義務があるからね」

そんなことは俺は知らないよって、ああ、行っちまいやがった。リリスの姉御といい、タブリスといい、勝
手な奴が多いよな。

って、また変わったのが来たよ。地上では数日は経ってるのかね。
今度のも肉体とつながりがある奴だ。ただ、魂というか心の方が死にかけてるってやつだな。
まあ、こういう奴の方が誘惑はしやすいか。生きる意欲が湧くような欲望を刺激してやれば・・・・・・・
それにどうやら普通の人間のようだし。では、また変化してっと。

「始めまして、お嬢さん」

「シンクロ率ゼロ。セカンドチルドレンたる資格なし。もう、私がいる理由がないわ。誰も私を見てくれな
いもの。パパも、ママも、誰も。私が生きていく理由もないわ」

・・・もしもし?

「誰も私を見てくれないもの。私が生きていく理由もないわ」

いや、俺が今見てるんだけど? 俺はあんたにすごく興味があるんだか?

「誰も私を見てくれないもの。私が生きていく理由もないわ」

・・・ちょっと記憶を見させてもらうかな。
なるほどねえ。ちょっと悲惨だな。でも、ここまで傷つくほどかね? 悪魔である俺には今一理解できんが。
ま、考え方によっちゃあ、それだけ純粋と言えなくもないか。
何にしても今の状態じゃ話もできないからな。ほんとは契約してからでないとやりたくはないんだが、ちょ
っと魂に活力を与えてっと。

「あんた誰? って何でアタシ裸なの? エッチ! バカ! ヘンタイ! 信じらんな〜い!!」

ドゲシッ!!

な、何だ!? 俺はほんのちょっと力を与えただけだぞ? それで悪魔に蹴りを入れるとは、恐るべし。

「あんた誰よ? 何、その変な格好は。服は無いの、服は?」

蹴られたショックで元の姿に戻っちまったよ。しかしなあ、悪魔の姿見て、変な格好って言うか普通?
ああ、それから裸なのは魂だけだからだよ。念じれば服を着てるようにみせることもできないわけじゃない
が、その服も魂の一部だからな。俺なんかから見れば、裸と大して変わらんよ。

「フーン」

フーンってそれだけかよ。・・・まあいい。あんた力欲しくないか?

「は? あんたバカ? 力なんて自分で手に入れるものでしょうが。他人から貰うもんじゃないでしょ」

でも、自分の力ではあの男に劣ってたわけだよな。

「くっ」

俺ならあいつ以上の力をあんたにつけさせることができるぜ。
ついでにそいつがあんたにメロメロになるようにすることだって・・・。

「な、なんで、シンジがアタシに惚れるようにするわけ〜」

なんでって、あんたあの男のことが好きなんだろ? さっきちょいと記憶を覗かせてもらったのさ。
いや、しかし地上ではすげえ争いやってるんだな。何で俺たちだけ黙って見てなきゃいけねえんだ?おもし
ろくねえよな。
ん? どうした?

「アタシの記憶を覗いたですって〜!?」

ヒッ! リリスの姉御よりおっかねえ!

ゲシゲシゲシゲシ

やめろ、こら。蹴るなよ。いや、やめて下さい、蹴らないで、お願いだから。

・・・・・・。

おや? いなくなった。・・・そうか、地上の方で何かあって呼び戻されたか。いや、助かった。

もう、変なやつは勘弁だぜ・・・って来たよ。また変なのが。
完全に死んでるくせに嫌にはっきりと生前の姿を残してやがる。
しかも、詰襟の服も白い手袋もサングラスまで完全に再現してやがるぜ。やだやだ。ああいうのとは関わり
あいたくねえ。どっか隠れるところは・・・。

「おい」

あっちゃ〜、見つかっちゃったよ。何スか?

「ここはどこだ」

あの世ですな。もうちょっと行くと天界行きと地獄行きに道がわかれますよ。

「そうか。では、地獄の方に案内しろ」

へ? 地獄って・・・、あんた地獄の支配者にでもなるつもりかい?

「何故そう思う」

だって、自分から地獄に行くなんて言う奴いないぜ。たまにいなくはないが、たいていそういう奴は天国行
きさ。でも、あんたは天国にいけるとは思えねえ。そういう奴が、しかもあんたみたいに迫力ある奴が地獄
に向かうとなりゃあ、地獄の支配権でも狙ってるのかと思いたくなるぜ?

「フッ。自分に天国に行く資格がないのはわかっている。だから自ら地獄に堕ちるのだ。さあ、地獄に案内
 しろ」

あー、道は自分が向かうほうに自然とつながるようになってるから、案内無しでも大丈夫ッスよ。

「そうか」

ふう。行った行った。

っと急に魂が来なくなったな。どうなってるんだ?
ん? 来た・・・けど、まただよ。さっきの娘みたいに傷ついた魂がフラフラと。・・・ありゃ、その娘の
思い人じゃねえか? どうなってるんだかねえ。

「みんな僕に優しくしてよ!」

わ!? 何だ、いきなり?
わかったわかった。優しくしてやるよ。

「嘘だ! そう言ってまた僕を裏切るんだ!」

いや、まあ裏切るというかねえ。ここは曖昧に笑うしかねえな。

あれかい? あんたは人に傷つけられるのが嫌なわけだ。

「・・・・・・」

そんな哀れっぽい目で見るなよ。
よし、こんなのはどうだ? あんたが望むなら人間の魂全てを対価にしてくれりゃあ、そいつらを地上から
消し去ってやろうじゃないか。あんたが会いたくないって相手だけでもいいわな。誰を選ぶかはあんたの自
由。在庫一掃、大特価、これ以上勉強できませんよ、お客さん。

「そんなことできるの?」

できるさ、あんたが俺と契約を結んでくれれば。難しい儀式はこの際無しだ。ただ、頷いてくれればいいん
だ。って、あんた地上に戻ろうとしてるね。早く決めてくれよ。

・・・お、消える直前に頷いたね。
OK。契約成立だな。
やったぜ。大量の魂ゲットだ。

「無理」

わ!? リリスの姉御? いきなりやってこないでくださいよ。地上の方はどうしたんスか?

「すべて終わったわ」

どうなりました? 無理ってことは、あの坊主、誰も消し去らなかったんですか?

「碇君は傷つけあっても人として生きていく道を選んだわ。でも、その他の人は違った。傷つけあうのが怖
 かったというわけでもないけど、一つに溶け合った生ぬるい状態にいることを選んだの」

は? つまり、今地上にある魂は、あの坊主とその他の人が1つになったものの2つだけ?

「もう一人、弐号機パイロットは自分の身体を取り戻したわ」

さっきのお嬢さんですな。・・・ま、彼が誰かの消滅を願わなかった時点で俺が魂を奪いとることはできな
くなったわけで、もう関係ないというか、どうでもいいやって感じですが。

「そんなに甘い事態じゃないわ」

へ? ・・・融けて一つになった魂は死ぬことはないし、あの二人ががんばって子孫残そうとか考えなけれ
ば、あの二人が死んだら魂はもう手に入らない?

「そう」

でも、あの二人、臆病すぎて自分の気持ちを伝え合ってないけど、想いあってますぜ。悲観することもない
でしょう? いざとなれば、神の奴が溶けた魂を分割するなりしますって。

ま、とりあえずあの2人にはがんばって人間を増やしてもらわないましょうや。でないと、誘惑する相手も
奪い取る魂もないじゃないか。そんなのはつまらねえよ。

たのむぜ、新たなアダムとイブさんよ。







End



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
後書き

どーも、たっち―です。

なんか妙なモノを書いてしまいました(^^;

それでは。

ご意見・ご感想をお待ちしております。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


たっちーさんより小説を頂きました〜。
私としてはこの悪魔の主人公がどんなヤツなのかひじょーに気になりますw
EOEの背景にこういうこともあったと考えると、面白くなってワクワク
してきますね(笑

楽しい小説をありがとうございました。