誰もいなくなりがらんとしてしまった教室。
数時間前、みんなが笑顔で記念写真を写し、泣きながら別れを交わしていた光景が幻であったかのように静かで侘しい。
そして僕もたくさんの思い出が詰まった大きな袋を手に、教室を立ち去る。
Thank you & Good bye.
written by ryu-bi
「アタシ?・・・うん、今度ドイツに帰るの。」
「ワイは一高に進学や。」
「俺は工業高校に。」
卒業式の後、行われた打ち上げのカラオケで僕はみんなの進路を知った。
かくいう僕も近所の高校に進学するわけで、みんなとはバラバラになってしまう。
誰一人として同じ進学先の友人がいないことは意外だった。
そして戸惑った。
いつまでも続くかのように錯覚していた時間。
皆がハジケ、次々と曲を入れていく傍らで、僕は頭を垂れる。
「じゃあ、またな!!」
「あぁ!」
「ほな。」
「またね。」その言葉が苦しくて、なんだか虚しい。
次に会う機会はいつになるのだろう。それはあてすら見当たらない仮初めの言葉。
皆が皆揃って、おもしろおかしく過ごした時間。二度とやってこない時間。
全てがこの掌から滑り落ちる。雪崩落ちていく。
誰もいないいつもの通学路。枯れた立ち木が立ち並ぶ道で、僕の額にやわらかな南風が吹きつけた。
不意に顔を上げた目の前に僕の住むマンションが立っていた。
「ただいま。」
もう着る事もないだろう中学校の制服を脱いで、部屋に入る。
学校から受け取った卒業アルバムを開くと、懐かしい写真達が顔を覗かせる。と、同時に。
シェルターに避難している時にトウジたちがバカやってる写真。
沖縄の海ではしゃぐクラスメイト達。
僕の知らない時間がそこには流れている。
それを見ていてちょっぴり悔しい気持ちになったけれど、
そこに映る親しい友人達の表情は僕の知ってる表情そのもので、思わず笑いがこぼれてしまう。
「シンジ。」
僕がその声に振り返ると、アスカの姿があった。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
少しの沈黙の後、いつまでも喋りだす気配を見せず立ちつくすアスカに僕は言った。
「どうしたの?」
「・・・なんでも、ないけど。」
アスカはそうは言うのだけれど、僕にはそれとなくアスカの気持ちを察する事ができた。
アスカも、僕と同じだから。
みんな、きっと同じ思いを抱えているのだろうから。
「アタシね、ドイツに帰りたくない。」
「・・・・・。」
部屋のじゅうたんに小さな染みが一つ、また一つ。
いたたまれなくなってアスカの肩に手をかけるとアスカは僕の胸に倒れこんだ。
顔をうずめて泣きじゃくるアスカを僕は黙って抱いている。
僕は白い壁を、無機質な天井をただ見つめる。
「・・・・・。」
アスカはいつのまにか泣き止んでいた。
「アスカ・・・。」
「・・・・・。」
「帰れよ、ドイツに。」
「!?」
アスカは顔を上げて、信じられないといった顔で目をみはる。
「ドイツに帰れよ。」
僕はもう一度だけ言った。
驚いて唖然としているアスカの目を逸らさず、真っ直ぐに見つめて。
「バカ。」
アスカは僕の部屋を出て行った。
その一言を残して。
「シンちゃ~ん、空港行かなくていいの?」
「わかってます・・・。」
ミサトさんの声が扉越しに聞こえる。
数日前―――アスカだって寂しくてツライのはわかっていた。
現に僕もそうだったのに、自分の事は棚に上げてあんな事を言ってしまった。
でも、いつまでも過去にすがっちゃいけないと思った。
アスカには、これから未来に向けて前を見続けていてほしいと思った。
楽しい事も、ツライ事も、人の倍だけあったと思うから。
この出会いは普通じゃありえないような、最高の思い出だったから。
アスカだけにはたとえこれを踏み台にしてでも、精一杯生きていってほしいと思ったんだ。
僕は扉を開ける。
平和な世界では今や空港のロビーはたくさんの人であふれかえっている。
アスカの乗る便は・・・ロルフアウスト708便。
「ロルフアウスト708便にご搭乗のお客様は・・・」
空港のアナウンスに思わず僕は駆け出す。
まだ、一つだけ伝え忘れたことがある。
一番大切で、一番重要な言葉。
搭乗口を中へと歩く金髪の少女に僕は叫んだ。
「アスカ!!!!!」
ありがとう
アスカは僕に微笑んだ。僕の目に笑顔が焼きついて、その光景が何秒間にも感じられた。
既にアスカの姿は視界にない。
僕は歩き出す。住み慣れた家に。新しい世界に。
空港を出た僕の胸にジェット機の轟音が響き渡る。
Fin.
ぐおおぉぉぉ!!(つwT
泣かせてくれますぜ龍尾さん!!
卒業は別れの時・・・、人々はそれぞれの道を歩んでいく・・・。
泣ける!! 泣けるぜぇ!!!
というわけで、龍尾さんより投稿小説を頂きました。
サンクス龍尾さん!!