全ての終局、全ての始まり 第壱話 死と生
「あ・・・アスカ・・・?」  狂気をまとったアスカを、シンジはこわばった表情で見つめる。 「さぁ・・・、死んでちょうだいシンジ・・・、アタシのために・・・」  アスカは、どこからか持ってきたナイフを、手に握っていた。 「ま、まってよアスカ、僕がなにか・・・」 「アタシにとって、アンタは必要のない存在なの、だから、死んで」  もちろん、理不尽な理由といえばそうだが、今のアスカは、そんなことはどうでもよく 思っている。 「待ってよ・・・、僕はアスカが必要なんだよ・・・」 「アンタが必要としていても、アタシにとってはいらないの」  それが、心の声なのだろうか。 「だから・・・、死んで」  ジリッ・・・、ジリッ・・・ アスカは、シンジにジリジリと少しずつ詰め寄る。 「い、いやだよ・・・、死にたくないよ・・・」  そしてシンジも、少しずつ後ろに下がる。 「いつも死にたがってるクセに、こういう時だけ生きたがるのね。アンタって本当に卑怯 者ね・・・」  恨みを込めたかのように、言った。 「や、やめてよアスカ・・・、僕を殺さないでよ・・・」  まるで怯えた子犬のような目のシンジ。 「・・・イヤ。アンタはここで死ぬのよ」  そして・・・、 ダッ アスカが地面を蹴って、シンジに迫る。 「――――!!」  シンジが目を見開く。  アスカも目を見開く。 そして―――   ズグシュ・・・・ 「・・・グ・・・・か・・・はぁっ・・・・」  ポタッ・・・ポタッ・・・ 血が滴り落ちる。 「あ、アスカぁ・・・・・」  ズッ・・・ シンジは、膝から崩れ落ちた。 「・・・・イ・・・・イヤぁ・・・・」  アスカは、返り血を浴びて、真っ赤に染まった自分の手を見た・・・、 「し、死にたく・・・・ないよ・・・・ぉ・・・・・」  その手は、小刻みに震えている・・・。 「・・・・・あ・・・・イ・・・・・・」  バタッ・・・ シンジは、ついに完全に倒れ・・・。 「・・・・イヤぁ・・・・・」  アスカはその血で真っ赤に染まった手を、まるで何かを見失ったかのように、見つめつ づけていた・・・。 「イヤああああぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!!」  1年後......。  人々は、LCLの海から回帰し、目覚ましい早さで、街は復興していた。 いや、街だけでなく、世界中である。 「人の力って凄いですね」 「そうだな」  マヤとシゲルが、街を見渡して言った。 「だが、皮肉にもその人が、サードインパクトという悲劇の元となった」  そして、マコトも。 「・・・終わったことを言ってもしょうがないさ・・・」  シゲルは、視線を流していった。 「・・・でも、皆いなくなってしまって・・・。悲しすぎます・・・」 「・・・そうだね」  マヤは、辛い表情をした。 「・・・ミサトさんは戦自に殺されて・・・、加持さんもそれ以前に・・・」 「・・・赤木博士と、碇司令も、行方不明だしな」 「・・・レイちゃんも・・・」  そして・・・、 「そして、シンジ君・・・」  シンジの名が出た途端、尚のこと、空気が重くなった。 「・・・アスカちゃんが・・・、手にかけたと、言っていたな・・・」 「・・・辛すぎますよ・・・、いくらなんでも・・・」  1番あってはならないことだった。 「―――そう言えば、アスカちゃんは、今どこへ・・・?」  シゲルが、マヤに尋ねた。 「・・・アスカは、シンジ君の、お墓参りに・・・」 「・・・そっか」  尋ねたシゲルは、再び俯く。 「―――いくら自分の手で殺めたと言っても・・・」 「そうね、それを受け入れるのは・・・、辛いわよね・・・」 「・・・アスカちゃんだって、きっと、本心では殺すつもりはなかったんだと思うけど、 現実は・・・変わらないからね・・・」  シンジは死んだ―――、それが、現実。 「・・・俺達は、あの二人になにもしてやれなかった・・・」 「私達の所為でもありますよね・・・、シンジ君が・・・死んだのは」 「・・・そうだね・・・、まだわずか14歳の二人をあそこまで追い込んだのは・・・、 俺達に責任があるね・・・」  でも、もう済んでしまった―――。 「・・・謝っても、許されないことだな、俺達の責任は」 「・・・せめて、俺達がアスカちゃんにできることを探そう。それが、アスカちゃんと、 あの世のシンジ君にできる、せめてもの償いさ」 「・・・そうね」  墓地 「・・・シンジ、アタシがアンタをこの手で殺めてしまった罪を・・・、今さら許してと 言うつもりはないわ・・・」  アスカは、シンジの墓標の前に立っていた。 「・・・でもね、今なら分かるの・・・」  そう、今ならね・・・。 「あの時のアタシは、本当はアンタを必要としていた・・・」  ファッサァ・・・・・ 風が吹き、アスカの髪が揺れる。 「・・・でも、その事実を受け入れるのが怖かったんだと思う・・・」  悲しげな表情。 「だから、その事実を否定するために・・・、アンタを殺めた・・・」  憂いを帯びたその顔は、美しさを増し・・・、 「・・・シンジ、ごめんなさい・・・」  少し、大人へと近づいていた。 「・・・今になってアタシの中の、アンタの存在の大きさ気付くなんて、アタシも大バカ よね・・・」  しゃがみこむアスカ。 「シンジ――――、アタシ、アンタの分も生きるから・・・」  その目尻に、涙が浮かぶ。 「しっかり生きてみせるから・・・。それが・・・、それがアタシがアンタにできる、唯 一の償いだと思うから・・・」  ファサァ・・・・ 風に乗って、その涙が辺りに散った。 「だから・・・、あの世から、アタシを見ていて・・・」  その涙は、光が反射し、キラキラと光っていた。 「・・・じゃあねシンジ、また来るからね」  スクッと立ち上がり、シンジの墓標を背に、その場を後にするアスカだった。  第2話に続く。
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