彼女が西へと奔る理由(ワケ)  後編 その2






























「さぁ、それに触れてみたまえ。」




総主の勧めに従って、明日香は目の前の球体に手を伸ばした。


































「澪を探し出すためにも、まずはここね・・・・・・・・」







そう呟く明日香の目の前には、絢爛豪華に飾られた巨大な門が聳え立っていた。




「さぁて、それでは早速お宅拝見と行きましょうかねぇ〜〜・・・・・・・え?」




そう言って見上げていた視線を戻した明日香の目に、門の両脇に立っている人物が一瞬異 形のモノの姿に見えた。





しかしそう見えたのもつかの間、すぐに人間の守衛の姿へと戻った。




「アタシったら駄目ねぇ。こんなに緊張してたんじゃ出来るものも出来なくなるわ。」






緊張によるただの見間違いだと思い込んだ明日香は、気を取り直して用意していた服に袖 を通しフードを目深にかぶると、守衛に対して話しかけた。



しかしそれこそ、アスカの身の危険を示す最初のシグナルだったのだが・・・・・・。



















「すいません、そこの門番のお方。」




「ん、どうした?」




「殷の王様のお屋敷はここですかな?」




「そうだが?何か用か道士?」



かなりの年月を経たであろう麻のような服と、フードを目深にかぶり目線を隠しつつ腰を かがめているその姿は誰が見ても一介の道士、もしくは老人にしか見えなかった。




そんな守衛の言葉に


『私の変装も馬鹿にしたもんじゃないわね』



などとほくそえみながら





「いえ、今殷の王様が異能の者を広く求められていると風の便りで聞きまして、私も少々 術を心得ているので王様にお目通りできないものかと・・・・・・・・。」




「おお!そうかそうか。そういうことならここで話している場合ではない。さ、こちらへ。」


守衛はそういいながら明日香を門の奥へと通す。




そう、アスカは澪探しのために人間界のトップに立つ殷の王・紂王の元を訪れたのである。


そして、守衛にいざなわれながら明日香は今一度匡壺からの手紙のことを思い出していた。























明日香がその球体に触れるや否や、それは音もなく弾け、中の手紙のみがふわりとアスカ の手の上に落ちてきた。



そして手の震えを必死に押さえながら、おそるおそる封を切った。



















『明日香ちゃん、ごめんなさい。あなたを置いていってしまったこの身勝手なママを許し て。ママは総主としての役目を果たせなかった・・・・。だから、そんな私が明日香ちゃ んのそばに居る資格なんてないと思ったの。



でも、最後にこれだけは明日香ちゃんに伝えとかなきゃいけないと思って手紙を書きます。





明日香ちゃん、多分あなたは気付かなかったでしょうけどママは一人で明日香ちゃんの肉 親探しを前からずっとしていたの。そして明日香ちゃん、あなたは山東に住む姜族の子と いうところまでは分かったわ。でも、あなたの母親までは調べることが出来なかった の・・・・・・。ごめんなさいね。



それとあなたは多分ずっと疑問に思っていたでしょうけれど、澪ちゃんは実は殷の名族有 蘇氏の娘なの。




私があなたを連れてきたときのように人間界を散策しているときに彼女に呼び止められた の。普通私たち仙人は人間界に行くときは相当なことがない限り人間の目に見えないよう にしていくし、本当なら人間の目にも見えないはずだとあなたは今思っているでしょう? でもね、極稀に仙人の姿が見える人間、『人仙』と呼ばれる人たちが生まれることがあって、 彼女もその一人だったの。そしてそういう人たちを見つけたときはすぐに仙界につれてく る決まりになっていたんだけど、それよりも『人間界においてある程度の地位にある人や 人間界の歴史に重要な影響を及ぼす可能性のある人は連れてきてはいけない』と言う決ま りのほうが強くて、彼女にそのことを説明したんだけど彼女がどうしても行きたいって言 って聞かなかったから、ママが内緒で仙界に連れて来てしまったの。








あなたは多分これを読んでいるときには全てを知って彼女のことをとても恨んでいるでし ょうけれど、彼女にも彼女なりの理由があったんだと思うの。だから彼女のことを許して やって頂戴。これがママからの最後のお願い。』



























『ごめんねママ。最後のお願い、どうしても聞けそうにないわ・・・・・・』




















そう心の中で呟きながら、宮城内の石畳を一歩一歩踏みしめていった。































「君かい?僕に仕えたいと言う道士は?」







守衛に謁見の間に通されてしばらくの間伏して待っていると、目の前に人の気配がしたか と思った途端、早速質問が飛んできた。




「はい。」




「で、君はどんなことが出来るのかい?」





明日香は、自分が予想していた自分の出自やその他の質問よりも先に来た、そして自分の 予想とは全く違った質問に少々面食らいながらも、明日香は賢仙ならずとも並みの仙人な ら誰でもできるようなレベルの知識や術の一部をやって見せた。







「君の方術は華麗さに満たされているね・・・・・」



その言葉に思わず明日香は見てはいけないといわれた王の顔を見てしまった。

と、その瞬間。





(きれいな眼・・・・・・・・・・)





と、一瞬だが明日香は王の真紅の瞳に見とれてしまっていた。




『そうだわ。澪を探し終わったらこの王に取り入って妃にしてもらって、この世の栄華で も楽しんじゃおうかしら。どうせ人間の寿命なんて私たち仙人に比べれば短いんだし、こ の王も私より先におっ死んじゃうでしょうしねぇ・・・・・・・。そしたら私は次の王の 義母として、強大な権力を握れるのよ!!我ながらなんてグッドアイディ〜ア!!!まっ、 それに飽きてからでも仙界に帰ればいいんだし、それに王のルックスも悪くないし ぃ・・・・・・・・・・。』





などと、自分も人間であることや匡壺公主の為にと言う大目標すら忘れて、現実そっちの けで勝手な妄想を膨らませていた明日香。




が、そこにそんな明日香を一気に現実へと引き戻す王の思いがけない発言が飛び出した。



「その術、僕の妃の妲己の術にそっくりだね。」




その言葉に正気に戻された明日香は、慌てて見えかけていた自分の素顔をフードで覆って その場に座り込んだ。そして、





『ちょっと何なにぃ?!何なのよ一体!もう既に妃がいるですってぇ?!?折角このアタ シの天才的頭脳がはじき出したベリィグッドなアイディアを頭っからぶち壊しにした奴は 一体どこのどいつよっ!!』






と、明日香は先ほどまで自分が超不謹慎な事を考えていたということは棚に上げて、その 考え通りに行かなかったからと今度は逆恨みし始めたのである。




そして、そんなアスカの気持ちを知ってかしらずか、王は続けて




「折角だから、妲己に逢わせてあげよう。」




と手を鳴らして件の妲己を自らの元へと呼んだのである。



無論、その妲己とやらを逆恨みしている明日香は奥へと通じる入り口を穴が開くほどに睨 みつけていた。





しかし、その明日香の怒りの形相はその妲己なる人物が視界に入ってきた瞬間一変させら れ、明日香は言葉を失った。



『・・・・・・・・・・・・れっ、澪!?!?』





















(続)


















後書き

どもども。WASYAです。

今回1万ヒット記念ということで、前々より投稿させていただいていた続きを投稿させて いただきました。


え〜、当初この小説を書いていた頃が嘘のような超遅ればせ(約半年ぶり)の投稿となっ てしまいましたが、そこはご愛嬌で(蹴)。


今回は澪の悪巧みの一端を見せるにとどまりましたが、次回は澪ちゃん(違った意味で) 大活躍なので、お楽しみに(藁)







ではでは。






WAYSAさんより、後編その2を頂きました。

ついに澪が本性を現しはじめましたか・・・。
う〜ん、なかなか深い展開になっていきそうですね(w

ご投稿、ありがとうございました。次回も期待しておりますw