聖夜に2人は結ばれた
 ネルフ内の休憩室 「か〜じ〜さん♪」 「おや? アスカじゃないか」 「加持さ〜ん、今日がなんの日か知ってる?」 「今日・・・か。クリスマスイブだろ?」 「だいせいか〜い」  ひしっ、と加持の腕に纏わりつくアスカ。 「それで、それがどうかしたのかな?」 「どうしたって・・・、もちろん、加持さんと今夜を過ごそうと思って♪」 「あぁ悪いけど、今日はちょっと用事があるんだ」 「えぇ〜〜?? つまんなぁい・・・」 「そうは言ってもな・・・、ちょっと外せない用事だからな・・・」 「ぶぅ〜・・・」  不機嫌に頬を膨らませる。 「まぁ、また今度な」 「・・・加持さんがそう言うんだったら、しょ〜がないっか・・・」  明らかにがっかりしたように肩を落としてみせる。 「悪いな、じゃぁ今度また買い物にでも付き合うよ」 「ホント? ・・・わかった、じゃー今日はガマンする」 「それじゃ俺はそろそろ行くかな」 「うん、分かった」  そうして、アスカと加持は解散(?)  ジオフロント内の通路をとぼとぼと歩く少女。 「あ〜あっ、でも暇ねぇ、せっかくのイブだってぇのにィ!」  はぁ〜〜っ、と盛大に溜め息。 「って、あれってシンジ?」  向こう側からシンジが歩いてくる。 と言っても、連れ有りだが。 「あ〜ら? 御二人ともお熱いことねぇ?」 「ア、アスカっ。そんなんじゃないって」  シンジが否定すると、 「ハン! まぁいいっけど、どうせアタシは邪魔者だもんねぇ?」  ちらりとレイを見やって言った。 「そんなこと言ってないってば・・・」  「碇君・・・」 「え? なに?」 「私、今日、シンクロテストがあるから、これで失礼するわ」 「そ、そう? ・・・じゃ、じゃあ、頑張ってね」  レイは、それ以上は無言で、静かに歩き去って行った。 「・・・フン、いけ好かないヤツ・・・」 「そういう物言いはないんじゃないか・・・と」 「なによ!? アンタ、やたらファーストの肩持つわねぇ?」 「だから、そういうんじゃないんだって・・・」 「いいわねぇ? もう二人はできちゃってるって感じぃ?」 「やめろって! 違うって言ってるだろっ!」 「なっ!?」  いきなりデカい声で叫ばれるものだから、アスカはびくっとしてしまう。 「あっ・・・、ごめん・・・」 「・・・むきになって否定するとこが、ますます気にいらないのよっ!」  ダッ! それだけ言うと、アスカはその場を逃げるように走っていく。 「ちょっ!? アスカっ!」  シンジがアスカを引きとめようとするが、アスカは聞き耳持たずに走り去っていった。 「・・・なによっ! シンジのバカっ!」  アスカは走りながら、唇を噛み締めていた。 「アタシの気持ちを知らないクセに・・・、アタシのことを見てくれないクセに!!」  その表情は前髪で隠れていて見えないが、アスカの走り去った後には、キラキラと光る ものが空気中に散っていた。 「アスカ・・・」  そして、その場に取り残されたシンジは、呆然とした表情で、立ち尽くしていた。  街中の巨大クリスマスツリー前 「ふぅ・・・、なにもする予定なくて、ただ飛び出してきちゃったからなぁ・・」  街を彩る巨大なクリスマスツリーのかたわらで、アスカはうつむいて座っていた。 「シンジのやつ・・・これからどうするつもりだったんだろ・・・」  はぁ、と今日二度目の溜め息。 「せっかく、聖夜に誘ってあげようと思ってたのにね・・・」  そう思うと、顔が少しほころんだ。 「ねぇねぇ彼女? 今暇なのかなぁ?」  ハッとしてアスカが顔を上げると、そこには三人組の野郎共が。 「・・・なんか用?」 「釣れないなぁ、暇そうだったから俺たちとお茶でもどうかと思ってさぁ?」 「・・・暇だけど、アンタ達とお茶するつもりないわ」 「まぁまぁ、そう言わずに」  三人組はアスカをぐるりと囲むように立った。 「アンタ達、ちょっとしつこいわよ」 「君がお茶に付き合ってくれるまで、俺たちはしつこいぜ」  そう言って、三人組のうちのひとりののっぽが、アスカに手を伸ばした。 パンッ! 「・・・ってぇ」  アスカはその手をなぎ払う。 「何度言わせたら分かるのかしら? アンタらと付き合うつもりなんてないのよっ」 「・・・こんのアマ・・・、俺らが優しくしてると思って付け上がりやがって!」  その男は、アスカの腕を無理矢理つかんだ。  こきん! 「へぶっ!?」  ばたっ そいつは、アスカから金蹴りくらって、股間を押さえながら倒れた。 「フン!」  アスカは荒く鼻息をついた。 「こ、こいつっ!」  他の二人の野郎が、アスカに襲いかかる・・・が。 ばきぃ! 「んげふっ!??」  そのうちの一人が倒れる。 「え・・・? え・・??」  アスカは別になにも攻撃していない。 「危なかったね、アスカ」  そこには、息を切らしたシンジが、棒を片手に立っていた。 「って、シンジ?」 「ようやく見つけたよ」  にこっ、とアスカに微笑む。 「てめぇぇっ!」  残りの一人が、シンジに向かって殴りかかる。 「あぶないっ! シンジっ!」  アスカが、飛んだ。 「うりゃあぁぁぁーーーっ!!」  ばきっ! べきべきっ! 「ふんぎゃぁぁぁっ!」  真空飛びヒザ蹴り、炸裂!  ばたっ! 勢いで、その男は盛大に倒れた。 「・・・ふぅ」  アスカは、決めたあと、シンジの方を向いた。 「・・・で、なんでアンタがここに・・・?」 「・・・アスカがあの時走り去ったあと、アスカをずっと探してたんだ」 「アタシを・・・?」 「だってアスカ、あの時、一瞬凄く寂しそうな顔したから・・・、放っておけなくて」 「シンジ・・・」  自分のことを心配してくれることが、どれほど嬉しいことだろう。  ふさぁ・・・ と、不意にアスカになにかが被さる。 「これ・・・?」 「アスカ、なにも上着着てないから、寒いと思って」  シンジは自分の着ていたコートを、アスカにかけてやった。 「・・・ありがと」  頬を赤らめていうアスカに、 「・・・うん」  シンジは微笑みで答えた。 「それでシンジ?」 「えっ?」 「早速だけど、今から暇かしら?」 「うん・・・、暇だよ」 「じゃあさっ、アタシに付き合いなさいよ」  シンジは一瞬きょとんとした顔をしたが、その後には、 「うん、もちろんいいよ」 「じゃ、決まりねっ!」  アスカは、シンジの腕に自分の腕を回すと、シンジの腕を引っ張る。 「あ、アスカっ?」 「いいじゃん、このほうが温いし」 「・・・うん」  そのアスカについていくように、シンジも歩き始める。 「わぁ〜〜っ、あれ綺麗ねぇ・・・」  街中を歩くアスカの見上げるものは、この街で1番大きなツリー。 先ほどのツリーよりも、さらに大きく、イルミネーションも凝っている。 「・・・ねぇ、シンジ?」 「ん?」 「なんで、アタシを追いかけてくれたの?」 「え・・・、それは心配したからって・・・」 「だから、なんで心配してくれたの・・・?」  シンジの顔を覗き込むようにする。 どきっ そんなアスカに、どきっとする。 「それは・・・」 「それは?」 「・・・アスカが大切だから・・・」  その言葉を聞いたアスカは、にやっ、とした。 「それって、どういう意味かしらねぇ?」 「えぇと・・・」  この先の言葉を言うのに恥ずかしいのか、シンジは目線を泳がせる。 「言ってみてよ・・・シンジ・・・」  アスカは、ねだるようにシンジに言う。 「それは・・・アスカのことが・・・」 「ことが?」  シンジは顔を赤くしているが・・・、 「・・・・好きだから・・・」  その言葉に、アスカは微笑んだ。 「・・・・アタシもよっ!」 「へ?」  間が抜けた顔をする。 「アタシもっ、アンタのことが好きだって言ってんのっ!」 「・・・アスカが・・・僕を・・・?」  今度は、信じられないという顔になる。 「なによぅ、アタシがアンタを好きになったら変だって言いたいワケ?」 「そ、そんなことないよ」 「じゃあ、返事は?」 「・・・もちろん・・・」 「ん?」 「OKだよっ」 「アタシも、シンジなら、OKの三連呼よっ!」  二人して微笑む。 「あれ? でも加持さんはいいの?」 「え? なにが?」 「だって、加持さんのこと好きだったんじゃ・・・??」 「あ、それなら大丈夫」 「??」 「シンジの存在が、加持さんを上回ってるってこと!」 「ははっ・・・なんか、嬉しいようなこそばゆいような・・・」 「なによっ? 不服だってぇの?」 「そんなことないってば」 「じゃぁ、行動で示してみなさいよねっ」 「・・・行動・・・??」  なんだろう、と思ったりする。 「ん」  アスカは、目を瞑った。 「え??」  それがなんだか、いまひとつ理解してないシンジ。 「乙女が目を瞑ったら、することと言ったらひとつでしょーがっ」 「な、なんだろう・・?」 「キスよキスっ! アタシにこんなこと言わすんじゃないわよっ」 「あ・・・う、うん」  そして、再びアスカは目を瞑った。 「じゃ、じゃぁ、いくよ・・・アスカ・・・」 「うん・・・」  そして数秒の後、 「「んっ」」  二人の唇は重なったのだった。  Fin.