憎悪 

〜前編〜

 

 

 

 

 

 

アイツは、シンジはアタシを追い抜いていった。

エヴァのシンクロ率でアタシを追い抜いた。

それほどエヴァにこだわってもいないアイツが。

アタシは4歳の時からエヴァに乗るために生きてきた。

今まで人生の全てをエヴァに掛けてきた。

そんなアタシの努力を嘲笑うかのように、アイツはあっさりとアタシを抜いていった。

アタシからトップの座を奪っていった。

アタシの居場所を奪っていった。

 

 

 

アイツだけは、シンジだけは許せない! 絶対に!

 

 

 

[コンフォート17]

その日、ミサトは出張で、あと3日は帰らない。

「アスカぁ〜。晩ご飯できたよ〜。」

シンジがアスカを呼ぶ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

だが、いつまでたっても返事がない。

いつもなら返事くらいは返ってくる。

だが、今日はそれすらもない。

仕方なしに、自分だけでも先に食べておこうと、キッチンの方を向いた。

スーー・・・・

静かにアスカの部屋の襖が開いた。

その事に気付いたシンジが、そっちの方を再び向いた。

「ア、アス・・・・・・。」

だが、そこにいたアスカは、凍てついた眼差しでシンジを睨みつけていた。

「ど、どうしたの・・?」

シンジが聞いた。

ペタペタペタ

靴下を履いていないため、有機質な音を発しながら、シンジに近づくアスカ。

そして、シンジの目の前で立ち止まった。

「ご、ご飯できたんだけど・・・。」

シンジは、異様な雰囲気を漂わせているアスカに、声を掛けた。

と、

ダアァン!!!

「グッ・・・」

シンジが床に勢い良く倒れた。

アスカがシンジの足を払ったのである。

「な、なにを・・・・・・・ガハッ!」

今度はアスカがシンジの腹を思いっきり踏みつけた。

ガン! ガン! ガン!

「グッ! がっ!」

アスカは何度も何度もシンジの腹を踏みつける。

「や、やめてよアスカ・・・・・な、何でこんなことを・・・・。」

アスカは冷たい目で見下している。

「なんでですって? ・・・・アタシから何もかも奪っておいて、「何でこんなことを」ですって!?

調子に乗るのもいい加減にしなさいよ!!」

ガン! ガン!

再びアスカはシンジの腹部を踏みつける。

「ぐふっ! お、お願い・・・だから、や、やめて・・・よ・・・。」

腹をかかえてうずくまるシンジを見て、

「フン!」

と、鼻息を荒くつくと、踵を返して自分の部屋へと戻って行った。

シンジは、痛みのあまり、しばらく動くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

[翌日、学校]

「どないしたんや? 今日はやけに元気ないやないか?」

「そうだぞ、シンジ。 なんか悪いものでも食ったか?」

トウジとケンスケが話し掛けてくる。

昨日、アスカに踏みつけられた腹部がまだ痛むシンジは、

少し腹を抑えるようにして席に着いていた。

「な、なんでもないよ・・・。」

やせ我慢だった。

周りの人に迷惑はかけたくない。

と、言うよりは、アスカに暴行を受けたと言う事実など、言えるはずがない。

「そうか? まあ、シンジがそう言うんやったらかまへんけど、

調子が悪うなったら、いつでも遠慮なしにわいらに言いや?」

「あ、ありがとう。」

シンジは、本当に自分の事を心配してくれている二人が嬉しかった。

アスカは、まだ学校に来ていないようだ。

 

キーンコーンカーンコーン・・・・・

朝のチャイムが鳴る。

ガラガラガラ

教室のドアが開き、アスカが入ってくる。

「・・・・・・・・・・。」

アスカは無言でシンジを睨みつけながら、自分の席へと着いた。

 

 

授業中も、常にアスカはシンジを睨みつけていた。

シンジは、その凍てついた視線を背後に感じながら、授業を受けていた。

と、言っても、その科目の教師の言っていることなど、耳に入っていなかったが。

 

と、自分のパソコンにメールが入っているのに気付いた。

なんだろう?

そう思いながら、メールを開いた。

そこには、

 

---------------------------------------------------

from ASUKA

to SHINJI

 

殺す

---------------------------------------------------

 

と、一言だけ書かれていた。

シンジは慌てて後ろを振り向いた。

そこには、不気味に口の端を吊り上げた笑みのアスカがいた。

シンジは、メールに書かれた「殺す」の文字と、

アスカの不気味な笑みに、背筋が凍る感じがした。

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

4時限目の終了のチャイムが鳴った。

「さーあ、飯や飯!」

トウジが立ち上がる。

「シンジも一緒にどうだ?」

ケンスケが声をかける。

「いや、僕はいいよ。 久しぶりに1人で食べたい気分だから。」

「さよか。 ほんじゃわいらだけで食うわ。」

「うん、せっかく誘ってくれたのにゴメンね。」

「別に気にするなよ。そのくらいのことで。」

「うん、ありがとう、ケンスケ。」

 

 

その日、シンジは久々に屋上で昼食を取る事にした。

「あ・・・・」

シンジの鞄の中には弁当が二つ。

そう、いつもアスカの分と自分の分を作ってきているのである。

それを、昼食の時間に渡している。

だが、今日はいつもの様に渡しに行く気にはなれない。

昨日、あんなことがあった後では。

「どうしよう・・・・。」

シンジが悩んでいると、

ガチャッ

屋上のドアが開いた。

「・・・・・・・・・・・・・。」

「あ、アスカ・・・・・。」

アスカが、そこに立っていた。

「あ、あのさ。 お弁当を・・・・。」

シンジは、気まずい、気まず過ぎる雰囲気の中、アスカに声を掛けた。

カツカツカツ・・・・

アスカが、シンジ目掛けて歩いてくる。

「つっ・・・・。」

シンジの脳裏に、昨晩の出来事が蘇る。

シンジは、無意識の内に後ずさりしていた。

カツカツ・・・

アスカが距離を詰めてくる。

ガシャン

シンジの背中が、フェンスにぶつかった。

「クッ・・・・。」

さらに距離を詰めてくるアスカに、恐怖のあまり顔を歪めるシンジ。

カツ・・・

またしてもシンジの目の前で止まるアスカ。

ガチガチガチ・・・・・

さらには、歯が振動するシンジ。

その様子を見たアスカは、

ニヤッ

再び不気味な笑みを浮かべる。

そして、

ガンッ!!

「ぐふっ・・・・。」

訓練で鍛えられた拳で、シンジの腹部を殴った。

シンジはたまらず前のめりになる。

シュン

ガン!!

「がはっ!!」

今度は膝蹴りを、再び腹部へと入れる。

これには耐え切れず、シンジは地面にうつ伏せに倒れこむ。

そんなシンジを、アスカはさらに凍りついた目で見下している。

「うっ・・・・くっ・・・・。」

痛さのあまり、呻き声を出すシンジ。

 

そんなシンジに、アスカは一言吐き捨てた。

 

 

「哀れね。」

 

 

 

NEXT STORY......

 


あとがき

さてさて、今回はエヴァらしくダークでシリアスに仕上げてみました。

と言っても、まだ前編です。

この先どうなるか・・・・。それはまだ決めていません。

では。


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