微熱少年          2000/05/16


ほんの少し頭がぼんやりとしていて
ほろ酔いの状態に似ていると思う
すっきりしないけれど 不快感はない
夢の中にいるような どこか不確かな時間
 
 
精神に障害のある元英語教師は
真夜中に主治医に緊急連絡した
内なる抑えきれない高ぶりを自覚したからだ
「先生、エマージェンシー、エマージェンシー」
主治医は答える
「まあ落ちつきなさい。明日の朝、ゆっくりと話を聞こう」
事件はその数時間後に起きた
彼に処方される薬は
激高する魂を 愚鈍な眠りへと誘うもの
トゲトゲの精神を
鋭い切れ味の心を
なまくらにする
鮮明になり 先鋭化していこうとする意識を
拡散し 誤魔化し 後退させるもの
天才を凡人に変える薬
 
 
ウィルス性慢性肝炎
治療薬として脚光を浴びているインターフェロン
不治の病と宣告されたものが完治する奇跡の薬
しかし 大きな希望には大きな代償を伴う
40度以上の高熱に 白血球の減少
凄まじい副作用
なぜか使用後の自殺者が多いともいう恐怖の妙薬
微熱が宿る秘薬
 
 
ハンドルを握れば心落ち着き
頬に風を受ければ 爽快
岩山の高見に立てば
空をも飛べる 微熱少年
 
 

 
詳しくは書きたくないけれど、僕らは絶えず、ある意味で狂気の中にいます。
 

 
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