飛行機乗りの棲む空へ    2004/08/29


 セピア色の写真の中で
 あなたは飛行機の前に笑顔で立ち
 誇らしげに両手を腰に当てていましたね
 頭には飛行機帽にゴーグル
 写真は何枚もありました
 そして写真ごとに飛行機は形が違っていましたね
 複葉機もありましたよ
 
 いつのまにか僕は
 お小遣いをためてはプラスチックの零戦や紫電改を組み立てる少年でした
 セピア色のあなたは
 いつも飛行機帽子姿
 
 リアルタイムでは
 マーチンやメグロにまたがるバイク野郎でしたね
 そういえばバイクで旅行にも行きましたよ
 後部座席には弟を背負った母
 座布団を括り付けたガソリンタンクには僕
 ハンドルを握ったあなたは飛行機乗り姿そのままに見えました
 そんなシーンまでが
 少しずつセピア色の世界に帰りはじめています
 
 思えば僕らは言葉を交わしたでしょうか
 なれない商売で会社が倒産しましたね
 弟とふたり1週間親戚に預けられ
 戻ってきたときには家の中が空っぽになっていました
 広い畳の部屋の中心に
 あなたが「これだけはこらえてもらった」といった電話機がひとつだけ
 
 僕らは親子が交わすべき言葉を交わしましたか
 沈黙の躾は僕を強い子にしたかもしれないけど
 軍人のあなたはちょっと怖く
 漠然と好きになれなくて
 無意識に距離を置いていたかもしれません
 強がり
 わかっているよと背伸びして
 実は何もわかってなかったことに
 少しずつ気づきはじめています
 まるで
 さび付いていた時計が再び時を刻みはじめたみたいに
 
 日曜日の秋空を見上げていると
 どうしてもセンチメンタルな気分に浸りたくて
 お店で二階堂を買いました
 
 

 
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