旅立ち    2005/04/10


 静寂の河原
 土手に整列した桜たちは
 登り来る太陽を待っている
 
 紅を引いた女たちを包んだ夕暮れの妖しの灯火は
 春の宴の一部始終を見ていた
 無遠慮なカラオケを
 白けた気分で聴きながら
 
 年老いた少年たちは歌う
 空想のセンチメンタル世界を
 あたかも通り過ぎてきた思い出として
 自分を欺くように歌うのだ
 そうして全ての欲望を放出し終えた獣たちは
 やがて力尽き
 いつしか現実の夜が始まる
 
 その瞬間から桜たちは息を殺して
 新しい陽射しに備えている
 狂おしいほどの命の炎を
 内気な月やうわさ好きな星たち
 漂う雲に見守られながら
 静かに燃やし続けているにちがいないのだ
 
 気まぐれな春の風にむなしく花を散らされながら
 その身をただ岸辺にさらしているのではない
 しっかりと力をためて
 いまにも爆発しそうな魂をなだめながら
 登り来る太陽を待っている
 
 
 
 

 
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