その昔、「老人と子供のポルカ」という歌がありました。歌ったのは、左ト全とひまわりキティーズ。 ♪ やめてけれ やめてけれ やめてけぇ〜れ ジコジコ… 僕は、あれ、いっそ「左ト全と子供のポルカ」にしたらよかったのに、と思ったくらいです。 怪優、左ト全(ひだりぼくぜん)。 1曲だけですがヒット曲もあり、他の追随を許さないキャラクター。 でも、僕は何も知らなかったんですよね。 池部良さんが、「熱砂の白蘭」という昭和26年に東宝砧撮影所で撮った映画でのエピソードを紹介したものを読みました。 舞台は中国大陸の小さな駐屯隊。8月15日の終戦を知らされず警備に当たっているところへ、大陸の奥から日本へ逃げ帰ろうという日本人十数人がやって来て、滞在が長引き、食べ物が不足していくのです。隊長は、難民の処遇と任務との間で苦悩するというストーリーだったとのこと。その隊長役が池部良さん。 その映画に、隊長に忠実な当番兵(階級は1等兵)の役で左ト全さんが出ていたのです。 トラブルは、難民たちが「食べ物をよこせ」と左ト全1等兵に詰め寄るシーンで起こりました。 集まった難民たちの怒声、罵声を浴びながら、ト全さん扮する1等兵が、 「ねえものは、ねえよ」 |
かくして、秘密が明かされたわけです。 ト全さんの台本の台詞の『ねえものはねえよ』の脇には、たくさん、髭みたいに短い線が引いてあったんです。 その意味の解説が始まったわけです。 無口だと思っていたら、案外ずけずけものを言うなあと少しむっとした顔をした池部さんのことを、金壷眼(かなつぼまなこ)をぐわっと開いて、睨み返して、 そうなんでしょうね。 いつも、こういうふうに、ト全さんは一生懸命だったんですね。 なんにも知りませんでした。 引用がすぎる気もしますが、大切な部分は、かいつまんで書き直しては失礼な気がして、僕なりの考えで、こういう形で紹介させてもらいました。 |