おばさんだけどちょっと素敵    2007/07/24
 
 
 いまは亡き江國滋氏の「旅券は俳句 ラプソディ・イン・アメリカ」から、ニューオーリンズの話題をひとつ。
 
 ニューオーリンズで、江國滋氏御一行は、ストリートを行進する『聖者の行進』を聴いてみたいと、ふと、思ったらしいのです。ところが、そういうのは元々はお葬式のときに演奏されていたものらしく、しかも、通常、葬列で演奏されるのは、当然のことながら黒人霊歌みたいなしんみりとした曲で、『聖者の行進』は、葬式が終わったその帰り道に歌うので、だからあんなににぎやかな曲になっているのだとのこと。
 そう聞いて、せっかくニューオーリンズまで来たのだし、ぜひとも聴いてみたいものだが、しかしそう都合よく葬式はないだろうなとあきらめかけたら、バンドを雇えばいいんだと教えられたのでした。
 
ニューオーリンズ
 そこで、街頭ミュージシャンのユニオンを通してだったかなんだったか、とにかくバンドを雇い、さあいよいよ裏通りを練り歩こうという段になったんです。
(最近は本物のお葬式でのお呼びはそんなにはかからなくなってきていて、実際は、観光客相手のアトラクションや企業のイベントにかりだされることの方が多いということらしい)
 かくして、トロンボーン、スネアドラム、チューバ、クラリネット、ベースドラムが並んだ。
 
『全員、ミシシッピーの船員帽をかぶり、白い長袖ワイシャツに赤いサスペンダー、黒ズボンに黒靴というおそろいのいでたちで、これが葬列用の正装なんだそうである』
 
 さあスタートというとき、ちょっと待て、列の先頭に喪主がいないと始まらないといわれて、江國氏たちのガイド役のお兄さんが喪主に仕立てられ、赤地に白の派手な模様を染めたおそろしく長大な襷をかけられ、『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラがさしていたようなひらひらのついた日傘を手渡された。
 
『 ♪ Now when the saints go marching in 〜
 耳になじみの陽気なメロディーに乗って、踊り跳ねるように全身でリズムをとりながら、なおかつ粛々と歩を運ぶすがたが、喪主を除いて、ぴたりとキマっている。』
 
バンド
 本を読みながらそんなシーンを思い描いていたら、突然、ある映像が蘇ってきました。
 The Kings of Dixieland(略称 KOD)が、岡山の玉野市に来たときのことでした。
 プログラムが終わり近くなったとき、日傘をさしたちょっと濃いおばさんが…。彼女はそれまでにも、ステージの袖でちょこちょこと踊っていたというか、リズムを取っていたのですが、そのときは、何かが憑依したのかどうか、バンドの先頭に立ち、日傘を突き上げつつ、腰をクネクネ妖しく振りながら歩き出したんですよね。
 それだけならまだ良かったのですが、おばさんは、なにしろ憑依してますから、お客さんたちを次々にゴボウ抜きにしていって、恥ずかしさいっぱいで小さくなって座ってる僕らまでも、強引に踊りの列へと引きずり…。最後には、お客さんたち全員でバンドにあわせて陽気に踊り狂うという、それはそれは恐ろしいことになってしまったのでした。
 あれよあれよというまの、嵐。(^^)
 
 
 話を元に戻して、この日のニューオーリンズでの葬式ごっこでは、行進が始まると辺りはたちまち観光客であふれ、みんなてんでにカメラのシャッターを切りまくって。
 
『 ヤジ馬をかき分けるようにして前に出た紳氏(ジェントルマンな同行者ゆえに江國氏がこう名付けた)が、いちばんいいポジションを占めてカメラを構えたとたん、陰になった中年の白人女性が、手にした使い捨てカメラを振りかざして、ものすごいいきおいでまくしたてた。
「なによ、あんた、割り込まないでよ、写真とってるんじゃないの、どいてよッ」
 あまりの見幕に、温厚な紳氏もさすがにむっとして、みごとな英語で切り返した。
「マダム、このブラスバンドは、わたしが5百ドル払って雇ったものだ。がたがたいわれる筋合いはない」
 女性の反応が意外だった。
「オー、それなら当然です、知らなかったので失礼しました」
 もちろん意訳だが、ニュアンスとしてはそういう感じで、微笑さえうかべて一歩退いた。』
 
 おばさんだけど、ちょっと素敵!
 
 
 あ、前置きが長い?
 
 

 
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