この平和を守るために    2005/09/13
 
 
 幸か不幸か広島県に生まれた僕は、中学・高校と、反戦教育を受けて育ちました。
 平和の問題については、クラスのみんなともしばしば議論しました。教師たちはほとんどが左派で、自衛隊は憲法違反だと声を揃えて。
 
 その一方で、活字を信じるな、新聞に書いてあることを正しいと思うな、自分の目で見て、自分で確信したことだけが確かなこととして判断できる人間になれと教えてくれた先生とも出会うことができました。おかげで、僕や気の合う悪童たちは、自分で見たことだけを信じ、自分の頭で考え、成長していきました。
 
 教師たちは自衛隊は憲法違反だとの大合唱。中途半端に賢い女の子たちは、すぐに染まりました。
 でも、僕は主張しましたよ。
 憲法違反なのは認めるとも。だけど、ダメなのは自衛隊かい? ダメなのは憲法かい?
 
 いまから40年以上前の中学校でも、いじめはありましたよ。いじめられてた同級生は不登校。一年間で、10日くらいしか教室に出てこなかったと思います。もちろん、学校は隠していたのでしょう。どう見ても出席日数が足りるはずも無いのに、彼はみんなと一緒に卒業しました。そして、それまでひとりも入学試験に落ちた者がいないという最低レベルの高校を受験し、歴史的な受験失敗を記録しました。
 どうして彼がいじめられていたかは知りません。ただ、彼は弱かった。それは僕にもわかりましたよ。そして、誰も彼を守らなかった。うかつに肩を持つと、いじめっ子の仕返しが怖かったから。先生たちも怖れていましたから。
 
 いま世界中で悲惨な目にあっている国や地域や民族があります。
 理由はそれぞれに異なり、例えばエネルギー資源を狙われていたり、食料が目的だったり、土地がターゲットだったり。でも、狙われている国や民族に共通していることがあります。それは、彼らが弱いということ。
 
 理不尽な目にあっている人々を、では、「世界」は救うのでしょうか。アメリカは世界の警察といわれています。でも、イラクに侵略されたクェートを救ったのは、そこに石油資源が眠っていたからじゃないですか。虐げられていたイラクを多くの血を流してまで開放したのも、そこに石油があったから。イラク以上に救いの手を差し伸べるのが急務と思われた北朝鮮の、虐げられ飢えに苦しんでいる人々は、いまもなお放置されたままです。
 
「世界」は温室でも動物園でもなく、「世界」は弱肉強食のジャングルのように見えます。
 アメリカ大統領が仮に人類愛に満ちた人格者であったとしても、犠牲者が増えれば、「なぜ他国のためにアメリカ兵が命を落とさなければならないのか」と叫ぶ人たちが国中にあふれることでしょう。
 だとしたら、日米安全保障条約があるとはいえ、丸腰では生きていけません。
 もしあなたが、グループのリーダーに指名され、みんなを守って平和に暮らしていくように依頼されたら、どうしますか。
 武器を持っているから襲われるのだ、武器を捨てたら、誰も襲っては来ないはず。本心からそんな世迷言をいって、みんなを説得しリードするのでしょうか。
 そういうのを、失礼かもしれませんが、平和ボケといいます。
 
 少年時代から、もう飽きあきするほど、そんな議論を繰り返してきましたよ。
 はっきりいいます。
 身を守るための武器は必要だと思いますよ。
 ヒューマニズムに根ざした性善説的な魂は尊いものです。でも、非現実的でもあります。
 いまは、世界中のすべての国が、軍隊を持っています。
 
 ただ、武器の暴走はダメです。
 その点については、少しの異論もありません。
 この国には、暴走を許した苦い歴史がありますし。
 とはいえ、暴走する危険があるから持たない方がいいという考えには同調できません。それは、暴走する人間が出て危ないからといって、自動車の使用を禁止するようなものです。問題は存在そのものではなく、使い方だからです。
 それだけに、武器の暴走を防ぐ厳密で精巧なシステムは不可欠です。
 その意味で、僕は、憲法9条がその役目を果たしているというなら、それはそれでも構わないと考えています。
 
 それとは別の、まったく逆の視点からの心配もあります。それは、いざ他国から攻められて、戦闘開始という事態になった時、自衛隊員が大挙して依願退職しないかということ。
 もしもそうなったら、僕は家族を守るため、志願して最前線に出るにやぶさかでないけど、如何せん素人ですよ。
 はっきりいって、それが心配です。そうならないためには、自衛隊の人たちを、もっとちゃんと認めてあげて、まさに命をかけて働くにふさわしい職場としての環境を整えてあげるべきではないかという気もするのです。
 誰が見ても違憲状態といったままにしていて良いのか。
 
 自衛隊を合憲化したら、この国が世界を侵略するという人たちがいます。
 戦争の足音が聞こえると。
 
 申し訳ないけど、僕はその意見には組みしません。
 時代も変わったし、天皇陛下を神様だと思ってる人もいません。
 

 
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