夏だ! ビールだ!  2007/06/24
 
 
「ビールの美味しい注ぎ方を知ってますか」
 そう、何回聞かれたことでしょう。
 まったく、うんざりだったんです。
 
 大体、こうです。
 まず、最初は勢いよく注いで泡のバリヤーというか、泡の層を作る。これは、ビールを空気に触れさせないためだというのです。ビールは空気に触れるとまずくなるから、と。
 そうやって、グラスの10分の3程度に泡がたまると、今度は、その泡の下にくぐらせるように、残り10分の7にビールを注ぐ。
 これだというんですよね。
 毎回、僕は即座に反論していました。
「ちょっと待ってよ。空気に触れたらまずくなるからというところから話が始まってるわけだけど、最後にグラスを飲み干すとき、泡からビールに戻った、その一番まずい部分を味わうことになるわけだよね。最後の最後に」
 そういうと、今まではみんな黙り込んでしまいました。
 わざわざ講習を受けて、ビールを注ぐ人としての何らかの資格のようなものをとったと豪語する人でさえ。
 
 
 そういう背景を知ってか知らずか、さっきカーラジオで、某ビール会社の製造責任者らしき人が、またぞろ、ビールの正しい注ぎ方なる解説をはじめたのです。
「おいおい、またかよ。まいったなあ」
 そう思いつつも耳を傾けていたところ、なんと、件の注ぎ方にはさらに先があったのでした。
 
 泡とビールとが3対7の割合で注ぎ込まれたら、泡の部分をビール自体の炭酸の圧力で持ち上げるようなイメージで、さらに、もう少し注ぎ込んでやるのだそうです。グラスの縁から、静かに流し込むように。そうして、ぐぐっと泡がグラスの縁を越えて盛り上がったら、箸か何かで、その盛り上がった部分の泡を飛ばしてあげてください、というんです。
「その泡は、内側に空気をたくさん含んだ(まずい)泡ですから。下に残った泡は、炭酸の、自分の圧力で生まれた泡になります」
 
 なーるほど。納得ですよね。
 
 
 でも、話はそれで終わりじゃなかったんです。
「いま申し上げました注ぎ方は、コクのあるタイプのビールに適しています。最初に乱暴に注ぎ込む分、炭酸の量が少なく、落ち着いた味になります。でも、夏の暑い日などですと、わたしは、最初は、切れのあるタイプのビールを飲みたいんですよね。たっぷりと炭酸を含んだままの、ドライな切れのあるタイプを缶ビールだと2本くらい、豪快にぐびぐびと飲みまして、少し落ち着いてから、種類をコクのあるタイプに変えて、味わうように楽しむんです。先ほど申し上げましたような注ぎ方で…」
 
   学びて思わざればすなわち暗し
 
 すべては臨機応変。
 よい話を聞きました。
 当然といえば当然の、こんなことさえも、ただ丸暗記しただけの人にとっては、悲しい物語になってしまうんですよね。
 
 蛇足ですが「注ぎ方次第で、まったく別の味になってしまいます」とのことでした。
 
 
 

 
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