ドラマチックをもう少し    2006/12/18
 
 
 つい先日、飲み会の時間調整のため立ち寄っただけ図書館で、「シナリオ」という月刊誌と出会いました。そして、その最新号には「長い散歩」が取り上げられていました。
 芝居のシナリオだったら、これまでにも何冊か読んだことがありました。昔の同僚に芝居をしてる男がいて、彼の芝居を見に行ったこともありました。かれは東京出張の度に小さな劇団のシナリオを買ってくるんだと自分で話してましたが、そういうマニアックなのでなくてよければ、大型書店にも、いくらか芝居のシナリオは置いてます。
 でも、映画のシナリオというのは、また趣きが全然違いました。なにより、カット割りが細かい。
 
 シナリオのスタイルというのは(まったく詳しくないのにこんなことを書くのは気恥ずかしいわけですが)、ざっくりとした取り決めはあっても細部はさほど厳密ではなくて、実際には色々なスタイルがあるみたいです。でも、概して、小説よりはクールな書きぶりのように感じるんです。小説の場合は、情景描写ひとつとっても、感情移入したがる傾向がありますよね。そこが大事だったりもしますし。
 もちろん、映画でも風景をとおして感情的なものを表現するのでしょうが、脚本のレベルで見ると、そこの指示が淡々としてる。そういう意味でクールだと感じました。
 
 「長い散歩」自体は、やるせない、どうしようもない世界を描いていて、どうしてこれほど陰鬱な表現を追いかけたいのかと聞いてみたいほどで、わざわざ自分からこの映画を見に行こうという気は起こりません。試写会の券か何かが舞い込んだら、もしかしたら行くかも知れないけど。パワーが減衰期に差し掛かった人間には、いささか観るに酷な作品です。
 ほんの少しですが、この元刑事と自分が重なり合う部分もあるし。
 
 ここまでは、ミクシィの日記に書いた内容を少しコンパクトにまとめて再掲したものです。無遠慮に素人の暴走を許してもらうと、シナリオって、おもしろい。まだ入口にも立ってないくらいで生意気ですが、少しわかってきました。
 生半可に理解した気でいたこと。つまり、基本的には小説のような叙述的な表現は用いないようですが、なかには、あえて使う人もいて、それについて、吉田剛氏(シナリオ作家・映画監督)は「青春残酷物語」のトップシーンで、『夜。ネオンが悪魔的な魅力で輝いている』と書いた大島渚氏については、脚本の提示する世界を表現するに有効であったという意味の論評をされて、返す刀で、同じような叙述的なト書きでも、エンディングで、たとえば『この町にも、もう春が近い』みたいな書き方をすることに対しては、「そういうのはダメ押しの後説か気取り(スノブ)にしかならない」と否定的です。
 
 今回読んだのは、「シナリオ」12月号です。
 掲載されていたのは、「暗いところで待ち合わせ」と「椿山課長の七日間」、それと「悶絶 ほとばしる愛欲」(原題「ニコミホッピー」)の3作。
 「暗いところで…」は素直に映画を観たいなと思いました。ただ、やはりテーマが重い。重ければ名作という単純な発想はないと思うけれど、重いんですよね。でも、「長い散歩」の場合は重いのも重いけど、どんどん観る者の心を奈落へと引きずり込んでいくみたいな底知れぬ凄味があるのにくらべると、こっちはそれほどじゃないし、救われます。乙一氏の原作。
 「椿山課長…」も、観たい気分になりました。これは文句なしに楽しめそうですから。笑って、泣いて。痛快にして洒落た娯楽映画です。浅田次郎氏の原作。
 どちらも、原作がしっかりしているんでしょうね。
 「悶絶…」は、第3回ピンク映画シナリオ応募作ですが、内容は、僕に言わせたら立派な文芸作品です。純文学。私小説風で、登場人物の心の襞の内側まで、丁寧に、淡々と描き切っていると感じました。
 原題は「ニコミホッピー」。それがどうして内容とは無関係なタイトルに化けるかは、その方が客が入るに違いないという営業サイドの思惑からでしょう。それは先刻承知の助で、それもまあ、笑えます。でも、本当、そんなシナリオじゃないんです。
 
 最後に少しだけ余計なことを書くと、多分、これらの脚本と映画とを比べると、映画の方がつまらないんじゃないかという気がしています。根拠はないけど。それだけシナリオが素晴らしいから。
 その根拠のない予感が、外れているかもしれないことを期待して、映画館に行くかもしれません。そして、シナリオも書きたい気分です。第十回シナリオ大賞の募集案内があって、大賞は副賞五百万円。200字詰め原稿用紙で、200〜300枚。今回は2006年12月1日から月末までなので間に合いませんが、来年なら。鬼には笑わせない。
 いままでに書いた小説を、不出来な部分を手直ししながら脚本にしたらいい訳でしょう。1作だけなら、面白い世界を紡げるかもしれませんよ。ずぶとく五百万円を取りに行きたい。そんな気分です。もう少し、この世界に浸っていたい。
 
 
 
 

 
前の話へ戻る 次の話へ進む
 
【夢酒庵】に戻る

【MONSIEURの気ままな部屋】に戻る