フーテンの時代    2006/01/22
 
 
 永嶋慎二氏が亡くなってました。
 氏の作品にかこつけて何か1本書こうと思い、記憶のまだらな部分を補おうとネットで検索してたら、ビックリ仰天。
 知りませんでした。
 
 
<訃報>永島慎二さん67歳=漫画家 「漫画家残酷物語」 [ 07月06日 11時26分 ]
 
 「漫画家残酷物語」「フーテン」など人生哲学的な作品で60年代から70年代にかけて若者に支持された漫画家、永島慎二(ながしま・しんじ、本名・真一=しんいち)さんが6月10日、心不全のため死去していたことが分かった。67歳。東京都杉並区の自宅で倒れているのを家族が発見し、搬送先の病院で亡くなった。葬儀は家族だけで行う予定。喪主は妻小百合(さゆり)さん。
 52年「さんしょのピリちゃん」で14歳でデビュー。61年の「漫画家残酷物語」は漫画に青春をかけた青年たちの姿を描いた。独特の感性でつづる私小説的な作風は熱烈な支持を得、教祖的存在となった。60年代は新宿でフーテン生活を続け、ライフワークとなる「フーテン」を生む。64年に虫プロに勤務し、テレビアニメの制作に携わる。67年から「柔道一直線」(梶原一騎原作)を途中まで手がけた。妥協しない生き方を貫き近年は寡作だった。72年「花いちもんめ」で小学館漫画賞、74年「漫画のおべんとう箱」で日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。
 
 
 僕は「若者たち」のシリーズも好きです。
 村岡栄という漫画家を中心にして、絵描きの卵や自称詩人の若者たちの、日ごろの貧乏な暮らしをとおして綴られる悩みのようなものが、自分はどこに向かったらいいのだろうかと考えていた自分自身とリアルタイムで重なり合って、印象に残っています。
 別に、漫画そのものの中には生きる指針もヒントも何もないんだけど。ただ、苦悩が、ありのままに描かれているだけ。その、答えを持たない作者の偉ぶらない自然さに惹かれたのかもしれません。「若者たち」のなかで、村岡栄くんもまた、編集者から、「人生漫画」なんて一時のブームで、いつまでも大衆はそんなものは追いかけてはくれないからと、強く原作ものを描くように勧められていました。それが、ご承知の「柔道一直線」のことだなとはすぐにわかりましたが。そして、その若者たちのシリーズの中で氏は、村岡くんに、「あの原作ものは断ろう」と呟かせるのでした。
 
 考えてみたら、フォークソングもまた、似たようなストーリーを辿り、似たような結末を迎えたような気がします。
 ちまたには、スケッチブックやギターを抱えた伝道師があふれていましたよ。
 そして、ガロに参加した漫画家ももちろん永嶋慎二も、西岡たかしと五つの赤い風船も、高田渡も加川良も、みんな人生のことをテーマにしていました。
 詩人も文筆家もそうです。
 寺山修二は「書を捨てよ、街に出よう」と呼びかけ、五木寛之は「青年は荒野をめざす」を連載していました。
 簡単にいってしまえば、僕らはだまされたんだと思います。
 確かに何かを求めていましたよ。自分だけの人生を、どんな模様に織り上げていけばいいのか。その方向性さえ定まらず、しかも、そもそも自分は才能があるのか、という大きな不安を胸に抱いて。だますつもりがあったかどうかはともかくとして、少なくとも、彼らの発したメッセージが、そんな未熟な若者たちの背中をドンッと強く押す結果になったことだけは事実でしょう。
 そういえば最近読んだ本で、五木寛之氏は、「わたしが昔書いた書物のせいで、多くの若者たちが海外に飛び出し、悲惨な末路を迎えられたと聞いた。たいへん申し訳ない。しかしこの○○氏は、そうしたなかにあって成功された方で…」などと書いていて、ご自分の犯した罪の深さに、多少は気付いてはおられるみたいです。
 
 でもしかし、アドバイスはアドバイスに過ぎません。
 決めたのは自分ですから。
 
 いまさら自己弁護しても仕方ない話ですが、食べていくということは大変なことです。
 永嶋慎二氏は作品の中で、アパートに転がり込んだ新人のジャンバーを脱がせて質屋さんに運んでいます。それでみんなでラーメンを食べて新しく仲間になったお祝いをするわけです。
 貧乏ということはそういうことであり、そのラーメンを食べてしまったら、次からはもう質屋に持ち込むジャンバーもコートもありません。
 原作ものを受けてしまった気持ちもわかるし、断ろうと思った時の気持ちもわかります。
「僕は自分の半分は売っているけど、もう半分は売らないで残しているんだ」
 氏のこの思いは、僕にとっても大きな支えになっていました。食べるために公務員になって、自由な時間のほとんどを売ってしまっていましたが、「僕も半分しか売ってない」と、いつも、そううそぶきながら働いていましたよ。
 
 
 

 
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