夫婦について    2004/07/12
 
 
 時間つぶしに本屋に立ち寄り、ちょっと気の利いたエッセーなぞ立ち読みすることがあります。
 これは面白いなと、すっかり買う気になってポケットの財布に触れてみたりもして、しかし飲み会まではまだ少し時間があるからとそのまま読み続け、結果的に一気に読破してしまい、まんまと時刻の方もころあいがよくなっちまって、あわれ、その本を本棚に戻すなんてことがたまにあります。
 娘とそんな話をしていたら、というか、娘とは実は男と女の話をしていたわけですが、付き合うスタンスについて意見が分かれ、僕としては自説を補強するための間接的な事実を提示しようとしてその話を持ち出したわけです。
「最後の1ページまで読んでしまった本を、誰が買うんだよ」
 普通なら、これは技が決まったと思いますよ。でも、敵は手強かった。
「本当によかったら、買うんじゃないの」
 
 娘が学生時代にバイトしていた居酒屋の夫婦は、僕の記憶も怪しいものですが、たしか幼馴染か何かで、彼らはよくこういってアドバイスしてくれたそうです。
「本当に一緒になりたいと心から思える人、そんな相手と一緒になりなさいよ」
 正論ですよね。だけど、そんなことをいってたら、何百歳になっても結婚なんかできません。あ、それで結婚しない若者たちが増えてきたのか?
「そりゃあ、その人たちはそういうよ。何年間も付き合って、お互いをよく知ったうえで結婚して、いま幸せなんだから。つまり、あれだよ。ゴールドメダリストたちにインタビューしたら、彼らは、流した汗は必ず報われるというんだ。自分を信じて、頑張ってよかった、と」
 だけど、それは例外なんだ。
 死ぬまで宝くじを買い続けたとしても、一等賞金は当たりません。「必ず誰かが当たっている」とか、「買わなければ絶対に当たらない」とか、そんなごまかしの言葉を真に受け、簡単にだまされる人などいませんよ。少しはいますか。それにしても、所ジョージは、あれ、共同正犯ですよね。悪いやつ。
 いや、要するに、それは理論として成り立っていないということがいいたいわけです。事実は否定しないけど、定説としては成り立ちません。稀有な例ですから。あるフィールドから多くのサンプルを抽出して、一定の割合以上が同一の結果だというならそれは説得力がありますよ。でも、そうじゃない。
 
 そんなとき、あいどんさんのサイト、ドラマ・ファンの《今日も大宇宙の隅っこで》にある【メルヘン夫婦】の話を読みました。
 だから、否定しません。>娘よ
 否定しないけど、それはやはり、宝くじに当たった人の話でしょう。
 うらやましいし、率直にいってあこがれますが、それを求めてたら…。いつまでもひたすらに、そんなまぼろしばかりを追いかけてたら、あっという間に人生は終わりを告げることでしょう。
 
 でも、それにしても(メルヘン夫婦の話ですが)、どうみても女性のかたは無謀ですよね。というか、それだけ純粋なのでしょう。その手紙、僕みたいな悪いやつが、筆の趣くままに本人の人間性やタイプとは無関係に代筆してたとしたら、とか、考えないんでしょうね。そういうところがまた素敵で困りものだ。
 ともあれ、そこらあたりからしても、女性のかたは、宝くじの一等賞だったわけです。うらやましい限りです。
 でも、うらやましくなんかありません。その男の人は、
 
妻を愛している
 
と公言してて(もちろん僕だって妻を愛していますとも。負けるもんか)、そんな幸せ気分に酔っている日常からは、世間に背を向けたような文章など書こうなどという気も起きないでしょうし、複雑な自分の内面をひっくり返したり裏返したりしたような詩も書かないに決まっているし、幸せという人生の半分側しか見ることなく、年老いて死んでいくのです。間違いありません。ソクラテスの妻を得た男の方が人生は充実するのに。
 
 ん、何を書いてるのかな。要するに、お互いが理想とするタイプ同士が出会い、結婚に至る確率の話でしたよ。(ちょっと悔しくて、混乱してきちゃった)
 つまり、百年かけて理想の相手を見つけたとしても、相手が、あなたは私の理想じゃないのよ、てなことになる可能性だって当然あるわけですから。
 むずかしいと思いますよ。僕の周りにいる男たちは、ちょっといいなと思うお兄さんたちはみな売れてるし、おじさんたちは悪いのばかりだし。
 やっぱり…。
 
 しかし、本屋さんで立ち読みして最後までいってしまった本でも、本当によかったら、買います?
 気に入って買って家に持ち帰った本ですら、読み終わったらブックオフに売りにいってない?
 
 
 

 
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