うわさを聞いて、熊山英国庭園というところに行ってきました。 岡山の自宅から車で50分。ちょっとドライブするのには手頃な距離です。 入り口近くで地元のおじさんに、「どちらから来られましたか」と声をかけられ、岡山からだと答えると、悪意のない笑顔で「岡山からわざわざ来られましたか。岡山なら、こんなところより、もっといいところがありますよ」。 確かに、玉野市の深山公園にはイングリッシュ・ガーデンというのがあります。洗練されていて見事です。厳密にいえば玉野市であり、岡山じゃないけど。 そこは、花が終わるとすぐに別の苗を植え替えているのか、手入れが行き届いてる感じで、欧州ふうなモニュメントも並んでいたりして、全体的に綺麗でした。 そのかわり、深山公園自体は入園料は要りませんが、イングリッシュ・ガーデンのエリアだけは有料になっています。 熊山英国庭園の場合は、終わった花がそのまま並んでいます。何となく雑然として見え、残念な気もしました。でも、考えてみると、この方が自然かも知れません。これから咲く花もあれば、散る花もある。 アーチを飾る薔薇が、種類が違うのか半分くらいはまだ蕾が多く、「来るのが少し早かった」と妻がしきりに残念がるから、 「だけど、ほら、いま咲いてる方の薔薇は、こっちの蕾が開いたころには終わるんだよ」 全部の花が一度に見られる時期があるわけじゃないんだからというと、納得していました。 ある意味では、自然です。 しかも、入場無料。これは驚きました。 種がはじけて飛んだのか、通路になっているところにも小さな花がこぼれて咲いていて、それが気になりました。 実は、山野草を求めて山道を歩いていても、そういう状況に遭遇します。 木陰に可憐な花が群生していて、それが道の方にまで飛んで咲いているのです。 そのままにしていたら、いずれは、必ず誰かに踏まれてしまいます。放っては置けませんとも。 小さい花に くちづけをしたら 小さい声で 僕に言ったよ 小父さんあなたは やさしい人ね 私を摘んで お家につれてって 私はあなたの お部屋の中で 一生懸命 咲いて 慰めてあげるわ これは、いまは亡き浜口庫之助氏の「花と小父さん」の一節です。 彼がこんな詞を書くとは…。 この歌詞の一部を引用したいと思い、引用する場合のルールに従うため著作者を調べたら、浜口庫之助氏でした。 外国の歌だと思い込んでいて、訳詞者を調べようとしたのですが、意外でした。 最近は山野草を持ち帰ると叱られることになっています。 僕も、写真に撮るだけです。 でも、僕が小学生や中学生のころは、多くの子供たちが植物採集をしていましたよ。 採集したものは新聞紙を重ねて乾燥させ、根っ子まで付けた形で標本にしてました。夏休みの宿題で、一人10枚以上とか、20枚以上とか、先生にいわれて。 グラフ誌の編集をしていたころ、稀少な山野草の写真を載せたことがありました。岡山ゆかりの、みんなが大切にしなければならない花といわれている種類でした。 そうした写真を掲載する場合、普通は、撮影場所をクレジットで入れます。 しかしその時は、地元の要望で、クレジットを入れませんでした。 場所を明らかにすると業者の盗掘が入るから困る、というのがその理由です。 一夜で、あたり一面すべて、根こそぎ持っていかれるというのです。 業者という表現は適切ではないかもしれません。誤解を受ける可能性があります。もちろん「花屋さん」という意味ではありませんよ。 要するに、自分が育て楽しむためじゃなく、売るために盗むのだと。そういう意味での業者です。 どういう場合は植物採集してもいい。どういう状態のときは採ってはいけない。そして、採る場合はどういうことに注意しなさい。 大切なのは、そういうことではないでしょうか。 ただ単純にすべてを禁止するのではなく、もう少し丁寧にルール作りをすべきだという気がしないでもありません。 自転車で暴走する人がいるから、自転車の乗り入れを禁止している商店街があります。 その商店街を、僕はもう見捨てました。 危険なのはすべての自転車ではありません。限られた、ごく一部の人の暴走自転車であり、しかも多分、その人たちは、禁止されていてもおかまいなしに突っ走っているに違いないのです。 なのに、結果として、善良な安全運転の自転車乗りだけを商店街から追い出してしまったことに気付いていない。 いくら危険な運転をする人がいるからといっても、自動車を公道から閉め出すことは愚かでしょう。だって、ルールを守れない人を排除するだけで、こと足りるはずですから。 大切なのは、僕らがおごる心を捨て、花を愛し、守り、花と共存する気持ちを忘れないことだと思います。 いまのままだと、もう誰も山野草のことなど知らなくなりますよ。 心ある人ですら、「野辺に咲く名も知れぬ花…」などとしか書かなくなりますよ。 花が泣いてるかもしれない。 どうせ短い 私の命(いのち) 小父さん見てて 終わるまで |