ヘネシーに習えば    2005/05/11
 
 
 以前O・Bさんからいただいたヘネシーを、僕みたいな若造には分不相応と思えたので、しかるべき時が来るまではと、書棚の一角に飾ったままにしていましたが、この春退職し、この機を逃したら次はお葬式かもしれないと思い、遂に飲み干してしまいました。
 栓を抜く際にコルクがぽろぽろと砕けるのは想定の範囲内。上手に抜きましたとも。保存状態には何の問題もありません。
 
 喜びや苦悩がごちゃごちゃになって幾度となくかき混ぜられては叩きつけられ、練り固められ熟成した、まるで手打ちうどんの玉かパンネタみたいな形の脳細胞の中に、琥珀の研ぎ澄まされた酒が、じわりじわりと染み込んでいって、積年の垢が洗われていくにつれ、多くの後悔と少しばかりの安堵の感情が、優しく僕を包み込んでいきましたよ。
 
 
 
 
 この度、U兄から高価な画筆を送られ、また新たな宿題を与えられた気分です。
 これまで見たこともない上質な筆です。世の中にこんな筆があったことすら知らずに絵を描いていたうつけ者の僕。
 いうまでもなく筆は消耗品です。大切に使っていても、いずれは毛先が擦り減っていき、使用に耐えなくなります。それがわかっているだけに、もったいなくて使えません。
 僕が困っていると、娘は、使ってあげてこそ道具が生きるんだよと、憎い台詞を吐きます。
 第三者はいつも冷静ですよね。
 
 いま、娘の忠告から24時間を経て、僕は問題の筆を手にしながら、
 「これはヘネシーかな」と思っています。
 人生はサークルゲーム。いずれまた、誰かのために特別な思いを込めて絵を描くときが訪れることでしょう。
 そんな状況になったら、使わせてもらうことにしましょう。
 
 

 
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