かんべんしてやれよ     1999/11/27
 
 
ラジオでタモリが、「かんべんしてやれよ」といっていました。
金曜日午後7時前の、あれはニッポン放送でしたよ。
話題は、「福祉施設勤務の31歳の職員が、女子中学生とSM4P」という新聞記事から。
はじめ聞いたときは、またかよ、教師に警察官ときて、今度は福祉施設職員か、と思いました。
とんでもない不埒なヤツだ、と。
でも、よく聞いてたら、どこかちがうんです。確かに女子中学生3人と遊んだわけですが、彼は自分を、少女たちに、脚で蹴ってもらったり踏んづけてもらったりしただけらしい。それで興奮して自ら発射して、お礼として3人に1万円ずつ払ったというのです。
「別に、少女たちの身体にさわってもいないんだろ?」とタモリ氏。
かんべんしてやれよ、それくらい。
笑いながら、そう繰り返していました。
 
援助交際はよくない。どうしても我慢できないなら、お金を払ってしかるべきところで処理したらいいんだよという人たちがいます。彼らはお金にものをいわせて、夜の街に君臨します。
僕としても、その意見に異議は唱えませんが、性格的に、そういう厚顔無恥な遊び方のできないタイプというのはあります。
お金で済ませるというのはある意味でスマートですが、それにしても、少なくとも法律はそのことを許してはおりません。
その点、お金を払って脚で踏んでもらうというのは、その行為自体は、これは大人同士の間で行うのであれば、法律には抵触しません。
件の福祉施設職員氏の罪名は、僕の記憶違いでなければ、児童福祉法違反。なるほど、相手が中学生ですから。
それで新聞に書かれて、話題になって……。
しかし、児童福祉法をつぶさに読んでいませんが、頑是ない児童を大人たちの暴虐から守ろうという立法の趣旨に真摯に思いをいたすとき、これを今回のケースに適用することについては、さすがに不自然なものを感じますし、大いに疑問です。
彼女たちが泣きながら福祉施設職員氏を蹴ったり踏んだりしていたとは、到底考えられないのです。
誰も傷ついていないと思います。
もしかしたら、そんなことまで事件にするのかと、そのことが滑稽で、新聞は記事にしたのでしょうか。
 
某テレビ局のトーク番組で、出演者一同がたけし軍団の井手らっきょ氏のビデオを見ていたことがありました。例によって、らっきょ氏が股間にモザイクを入れられて、旅館の大広間のようなところを走り回っているのです。その時、頭をスポーツ刈りにしたひとりのアナウンサー氏が、タイミングよく、「体育会系は脱ぐんですよ」と解説して、「おお、そういえばそうだよな。なるほど、なるほど」とみんなが納得していたら、「あまり知られていませんが、芸術系は女装に走るんです」とポツリといったゲストがいました。
小さな声でしたが、まったく衝撃的な発言でした。
 
岡山大学の美術部では、夏の間、1週間の合宿をしていました。
場所は大山の山小屋だったり、牛窓のお寺だったり、瀬戸内の小島の無人の廃屋だったりしました。
一週間集中して作品の制作に打ち込むというのが主たる目的ではありますが、部員同士の心の交流を深めるということも大きな目的と考えられていたようです。
その合宿最後の打ち上げの夜には、あらかじめ決められた班ごとに、スタンツといって何か出し物をやるのですが、部長のグループは、オリジナルな脚本を書いて寸劇をやる習わしになっていたのです。
その場合のお約束として、女子部員の衣装を借りて、必ず女装がありました。
寸劇は複数の班がやっていたような気がしますし、いま思えば、夏の合宿の時だけでなく、しばしば何かで盛り上がっては、誰かが女装していたような気がします。
もちろん僕も、何回かスカートをはきました。
確かに、「芸術系は女装する」のです。
「芸術系」を「文化人」と言い換えてもいいとすら思います。
小説家たちがどういうときに行うのかは知りませんが、文士劇というのもきいたことがありますし、ああいうのにも、いかにも女装のキャストが登場しそうな感じがします。いえ、知りませんけど。
 
そういう倶楽部みたいなものを経営しておられる人におうかがいしたいのですが、医師とか、弁護士とか、大学の先生とか、客層としてはそういう人たちが多いと聞いたことがありますが、あれは本当なのでしょうか。自民党の若手衆議院議員で、なにやら嫌疑を掛けられて自殺した人が、実はSM倶楽部でMの客だったというセンセーショナルな噂が流れたことがありましたが、疑惑の真偽は別として、彼も相当に理知的で、攻撃的な論客でしたよ。
見て気持ちが悪い人にとっては、見せられるということは状況としては最悪でしょうが、要するに大人の趣味の世界の話なのです。
多分、感覚的には体育会系が脱ぐのと、そんなには違わないのかもしれません。
あえて違いを探すとすれば、脱ぐことが、なにか開放感を伴った潔さのようなものを感じさせるのに対して、女装は微妙に屈折していて、情緒的で妖しい。その程度でしょうか。
 
らっきょ氏もそうですが、タモリ氏なども、脱ぐことにかけてはいわば常習者でしょう。
彼らは、嫌がり逃げ回るまわりの人たちに無理矢理見せつけても、多分、お金は払わないはずです。知らないけど。
しかも、通常は予告もなしに脱ぐのでしょう。少なくとも、相手の同意は得ないで、ね。
しかるに、福祉施設職員氏は、自分の嗜好を相手に告げた上で、お金まで払っているのです。
そして、少女たちは、何ら傷ついているとも思えない。
だったら……。
断っておきますが、これは僕の言葉ではありません。
ラジオで、タモリ氏がいってたのです。
「かんべんしてやれよぉ、それくらい」
 
 
                                 ムッシュ
 
 


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