くすぐったくて気持ちよくても     2000/04/05
   
 
つい最近まで、MAZDAのLUCEリミテッドに乗っていました。
ある友人は、「そうか、リミテッドか、凄いなあ」と妙な感心の仕方をしていました。
そうです、リミテッド。
これは、オーナードライバーをくすぐります。
なにしろ、Limitedでありますから。
ただまあ、そんなところを見て購入を決めたわけではありませんが。
気に入ったのは、そのデザインでした。
あくまでも角張って、厳つい。
いかついのが好きなのです。
ちょうど、舘ひろしをそのまま車にしたような。
 
ある夏の、花火大会の夜のことです。
川原に向かう人混みに埋まるような大渋滞の中を、家族4人うち揃い、このリミテッド君に乗ってノロノロ進んでいると、居並ぶ車たちを値踏みしながら歩いていたとおぼしきひとりのおばさんが、いよいよ僕らの横に来て、「お、こりゃあええ車じゃ」というのが聞こえました。
僕ら家族は平然と前を向き、みんな無関心を装っていましたが、こころのなかでは全員顔を見合わせて、大きくガッツポーズをしていたのでした。
そう。なにしろ、リミテッドですから。
ああ、君にして良かった。
 
しかし、このリミテッドというのが実は曲者だったのです。
リミテッド君ときたら、後部座席にヘッドレストはなく、背もたれの枕に相当する部分が高くなっているだけの代物で、説明書に図解されているエアコンを利用したクーラーボックスも、設置個所周辺のどこを探してもないし。
3年落ちの中古を買ったから知らなかったけど、車のグレード的には、最高級とは反対の、どうも、下側のリミットだったみたいなのです。
 
今年のはじめに車を買い換えました。
リミテッド君も、生まれてから計算すると12年以上経ちましたから。
別に調子が悪くなったわけでもないのに買い換えるというのは、頑張って走ってくれている彼に悪いというか、うしろめたい気持ちもありましたが、いくら長年慣れ親しんだ相棒とはいえ、いつか別れは来るのだからと、割り切ることにして。
 
新しい車は、TOYOTAのクレスタ。
グレードはエクシードです。
そのとき横にあったのが、クレスタのスーパールーセントでした。
おおっ、と思いました。
なにしろ、Superですから。スーパールーセント。
なんとまあ、高級感あふれるグレード名でしょう。
前出の友人なら、ルーセントの意味もわからぬまま(僕もわかってませんけど)、感心して腰を抜かすかもしれません。 ところが、実はこやつが、クレスタのグレード的には一番下のランクなのでした。
スーパーなのに。
そのすぐ上が僕の買ったエクシードで、その上の最高級グレードがエクシードG。
一番下のクラスでどこがスーパーかと、TOYOTAに文句のひとつもいってやりたくなります。
(あ、マーケットでも、スーパーが付くと安いじゃないかとでも言い逃れようというのでしょうか)
ともあれ、こういうのは、わかりにくい。
松竹梅。これだとわかりやすいのに。
わざとわかりにくくしているに違いありません。
つまりは、素人を欺くというか、身の丈以上の高級感を演出する目的で。
オーナードライバー本人に対しては、くすぐりの効果があるでしょうし、前出の友人など、「スーパー!!!」などといわれた日には、これはもういちころです。
しかし、そんなことをして何がどうなるというのでしょう。
いまさら反省しても遅いかもしれませんが、ある意味では、それは僕らの責任でもあると思います。
メーカーの戦略が、いくらくすぐったくて気持ちよくても。
華美な名前で驚かせたところで、それで車自体の性能が上がるわけでもないのに。
 
 
考えてみれば、こういうことは世の中にごまんとあるような気がします。
いくら高級な背広を着せ、いくらたくさんの肩書きを印刷した名刺を持たせたところで、それで馬鹿が利口になるはずもないのに……(以下自粛)。
 
 
                                 ムッシュ
 
 


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