その昔、生徒たちを前にして、ギターは楽器じゃないといった音楽の先生がいました。 無知、偏見とは、恐ろしいものです。 良いギターは、バイオリンと同じで、時代を経る毎に価値が高まっていくものだということを最近になって教えられました。そして、ギターのストラディバリといわれているのが、マーチンだとも。そんな名器たちを、インターネットで色々と眺めては、ため息をつき、目の保養をさせてもらっています。 そんなとき、ヤフーオークションや、gooのBIDDERSオークションで、高価なギターが個人的に売買されているのを見て、ふと妄想がわきました。 名画を鑑賞するとき、僕はどうしても技術的な面にも目が行きます。 その絵の価値とは別の次元で、技術的に優れている絵の前では、テクニックを盗もうと舐めるように凝視し、見抜いたと思えば、ぜひ自分でも試してみたいと考えます。 さほどテクニックを要しないのに妙に味があって惹きつけられるような絵の前でも、時にはその絵自体が欲しくなり、しかし実際には買えないから、じゃ、模写してみようかな…と、なることもあります。 いうまでもなく、模写と贋作とは、製作意図において全く別のものです。僕は模写をするとき、意図的にサイズを変えたり、サインを変えたりします。要するに、模写であることを明示するよう心がけます。 しかし…というか、それだけに、模写と贋作とは、境界があるようでない感じもしています。 なぜこんな話をするか。 ギターも、模写が容易だと思うからです。 例えば、マーチンモデルの国産ギターがいくらでもあります。これらは、国内のメーカーがマーチンと技術提携などして作られたものです。タイプによっては、外観はマーチンとどこも違いません。音にしても、自称ですが、マーチン以上と宣伝しているメーカーもありました。そのあたりになると、一本一本をどう比較するかという話になるし、何ともいえませんが。 では、それほど似ているものを、実際どこで見分けているかというと、それは、サウンドホールの中です。ここに、そのギターの出生証明があります。紙が張ってあったり、木部に刻印が打たれていたり。 そして、この出生証明書の贋作こそ、驚くばかりに容易と思えるのです。名器たちには、必ずここにシリアルナンバーが打たれていますが、誰もこれの管理はしてない(個人的、部分的には公表してるサイトがあるとしても)でしょうから、広い世界中のどこかに同じナンバーのものが複数存在していたとしても…。 そうなると、もはや模写ではなく、贋作。偽マーチン。 オール単板(※1)のギターの場合、国産だと10万円台からありますが、これがもし何かに化けたとしたら、一気に何倍もの価格になります。ものによっては、10倍以上に。 恐ろしいことです。 隠すより現れるで、何かの弾みで疑問に思うことがあるかもしれません。だけど、大金をはたいて買ったギターなら、誰だって、無意識に本物と信じたい作用が働くはずです。疑いませんとも。 そう思うと、もう買えません。 もちろん、根拠のない妄想に過ぎません。 実際にはギター本体だけでなく、保証書や説明書なるものなども付属しますし、買い方さえ慎重に行えば、偽物をつかまされたりはしないでしょう。とはいえ、いまならカラーコピー機もあり、その気になれば簡単に偽造できそうですから、そうしたことも考慮に入れておく慎重さは必要かもしれませんが。 だから、マーチンが欲しい衝動に駆られたときは、ぜひこの話を思い出し、我慢することにしましょう。(^_^) そして、どうしても欲しくなったら、いっそ騙されたと思って、自分で偽物を作る。(自分で書きながら、凄い理屈だと感心する!?) 愛機Cat's Eyesの、ヘッドのロゴを削り、そこに自分で加工したトーチインレイを張って高級感を出したのは、せめて外観だけでもマーチンに、と思ったからでした。血と汗の結晶の改造が完成したときは、これでどこから見ても高級マーチン、と得意満面でしたよ。演奏してる姿からは、ボディの中の出生証明書までは読みとれないだろうと思ったし。シリアルナンバーまで偽造しなくても…。別に、誰かを騙して高く売りつけようというわけじゃないんだから。 だけど実際には、マーチンのDタイプにはトーチインレイを使ったタイプはないみたい。ヒョウタンツギの形の、00−45にはあるのにね、残念。でもまあ、元のCat's Eyesには、トーチインレイの付いたタイプもあるからいいんだ。 というわけで、偽マーチンを作っても、それでもどうしても我慢できないときは、信頼できるお店で、信頼できるお師匠様に付いてってもらって…。 ※1 比較的安価なギターには、ボディーに合板が使われているケースが多いのです。 単板(一枚板)だと、弾き込むにつれ鳴りが良くなるといわれています。 |