ギターを録りながらスローダウン    2003/04/04
 
 
 アマチュアでCDを作っている人たちに刺激されて、僕も悪戯を始めました。
 自分のギターや歌を録音するというのは、独身時代以来のことです。
 
 就職してから結婚するまでの3年間というものは、独身寮の僕の部屋は、連夜、麻雀に憑かれた男たちの賭場と化していました。まさに夜毎、そして、週に1、2度は明け方まで、積んでは崩し、積んでは崩し…。(車をフロンテからシビックに買い換えたとき、まわりのみんなから「あの車の金は俺たちが払ったんだ」と悪くいわれた話は、この際自慢しときたいけど、長くなるからまたの機会に譲りましょう)
 だけど日曜日になると、みんな見事に寮からいなくなりました。温かな家族の元に帰るのです。そうして、県外組の僕に、束の間の自由が訪れました。
 そんなとき僕は、日記がわりに歌を書いては、ギターでカセットテープに録っていました。二重録音できる機種で、最初に歌いながらギターを弾いて、2回目にもう一度ギターで変化を付けて。コンデンサーマイク内蔵のテレコを何気なくそばで回してたら、驚くほど自然な音で録音できました。
 やがてギターを弾くという友達も出来て、ギター小僧3人で農協のホールを借りてコンサートもしました。寮には孤高のギター弾きもいて、その人とは2人でジローズをハモってました。短い間でしたが楽しかった。
 
 結婚してからは、当初はそうした個人的な時間というものは無用のようにも思われ、そのうち、世の中にはカラオケなるものも登場し、サラリーマンが人前でギターを弾くなどという機会は次第に失われていきました。いっぱしに夜の街に繰り出すようになったころは、まだスナックの中には、フロアの片隅にギターを置いてる気の利いた店もありましたが、そうした店も、どんどんカラオケマシーンに席捲されていきましたし。
 
 それから、長い年月が過ぎ去りました。
 今回、ふと悪戯を始めようと思い付いてからは、時間を見つけてはギターの練習をしています。ン10年ぶりに練習を始めてみて、自分でも指が動かなくなってるなと感じましたが、もともとそんなに絶妙な動きをしていたわけでもなく、しばらくさわっていると、「まあ、こんなものかな」といったレベルにまでは戻ったと自負していました。
 ところが、どっこいです。
 今時のデジタルマシンでボツボツ録音を始めたところ、聴き直していると、雑な、不出来な部分があちこち耳に触るのです。かつてテープにアナログ録音していたころは、僕のギターはまだマシだったはず。意地になって何度も何度も録り直しますが、ちょっとやそっとでは納得できる仕上がりになりません。
 どうも、マイクとか、機器や設定の問題もあるようです。まだ、機器の性能や癖を把握しきれてない。もちろん弾き手の力量の問題もない訳じゃないのですが。
 
 そうこうしているうちに、悟りました。
 あるがままでいいんじゃないか、と。
 今の、このままでいいと。
 そこに気付いてしまえば、まるで解き放たれたような気分です。
 嘘です。
 練習して、何回も何回も、何十回も練習していれば、一応ちゃんと、昔のレベルくらいまでは弾けるようになります。だけど、よし、これなら大丈夫と思って、いざ録音にかかると、なぜか、突如として具合が悪くなるのです。いまさら緊張するなんて、信じられませんが。年甲斐もなく。
 まあ、本当はどうだっていいんだと自分をごまかし、気楽な気分で始めると、たまにはうまく進みます。でも、7割か8割くらい進んだところで、つい気付いてしまうのです。
 お、今回はいいぞ。
 そう思ってしまいます。それが、僕がダメ男に戻る瞬間です。やっちまいます。
 
 
 そうこうしながらも、いま、2曲、ほぼ完成してます。ほぼ…というのは、まだ直すかもしれないから。
 そして、日々の暮らしの中の限られた時間ではあっても、こんな濃密な空間を楽しんでいる自分を見つめている、もう一人の僕がいます。この時間を大切にするためにも、あらためて、もう少し働こうかなという気がしています。
 仕事に責任を持つというか、しっかりした仕事をしようと思えば容易なことではありません。勤務時間は8時間と定められていても、24時間考え続けている意味もありますから。生きていくために、1日の中の8時間だけ売るつもりで就職しましたが、責任を持って仕事を仕上げようとすれば、ごく自然に24時間すべてを差し出している意味がありますから。
 それだけに、「人生の節目」というものを、意識の片隅では常に見据えています。人生の中に残された自分の時間ということを考えます。行き当たりばったりじゃなく、目先の給料袋に惑わされもせず、腰を据えてしっかり考えなければ、と。つまり、もう、そろそろ仕事はいいんじゃないのか、と。
 だけど、そういうことですから、とりあえずもう少しの間、気合いを入れ直して、もがいていようかなと思います。
 本当のところは、一気にリタイアとまではいかなくても、上手にスローダウン出来たら最高なんだろうけど。
 
 
 

 
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