夜店の思い出 1999/08/01
 
 
夏になると、ふるさとの町には夜店が出ました。
僕にとっては、これこそが夏祭りでした。
夏の夜のイベントとしては、学校のグランドに大きな櫓を組んで、音頭取りに会わせて盛り上がる盆踊りが最大といえます。
男女ひと組になって、手ぬぐいや扇子などを使って優雅に舞う手踊りが印象に残っています。踊りの所作をワンクールやると、フォークダンスみたいに相手をずらせて変わっていきました。中学生の僕は、なんとなく憧れて、遠くから見ていた記憶があります。
浴衣の若いお姉さんたちがまぶしくて、そのくせ、そういう心理を誰かに見透かされるような気がして、いつもつまらなそうな顔をして歩いてばかりいたかもしれません。
こうした盆踊りは確かに華やかでしたが、しかし一年に1回だけ。
一夜の宴です
 
 
夜店は商店街毎に開催される曜日が決まっていて、夏の間は毎週開かれるのです。
道の両側に、綿菓子屋やおもちゃ屋の屋台が並びます。
なかでも、僕らの町特有の評判のアイテムは「てんぐあめ」。天狗の横顔の形の飴に棒が付いてるわけですが、べっこう飴みたいな透明感のある素材に、白っぽい蜂蜜状のコーティングが施されているというもの。甘さも上品で、人気がありました。
僕らは天狗の鼻をしゃぶりながら、道の両側に並んだ屋台を物色して歩くのです。
ちょっとしたワルの気分で。
 
夜店の通りは浴衣の女性も歩きますが、当時は夜店は、土曜日の本町商店街と水曜日の永井町商店街とあって両方で毎週2日開かれますから、特別なイベントというよりは、ほとんど日常的な感じになっていて、僕らは普段着で出掛けたものでした。夕方の遊び時間の延長感覚で。
僕らは、得意の金魚すくいや風船釣りに興じたあと、子供相手の怪しいくじ引きに向かっては、煌々たる裸電球の並んだ夜店の屋台で、まんまと、有り金残らず巻き上げられるのです。
汚いテーブルの上に円形の的があり、円グラフの要領でいろいろな景品に区切られていて、その中心に立てられた柱に時計の針のような竹籤が付いています。こいつが回転するのです。その竹籤の先に糸が結びつけられていて、糸の端には木綿針。これがくじです。
僕らは欲しい景品を狙って竹籤を指で回します。
このくじは、惜しいことはあっても、決して目的の商品に針が止まることはありませんでした。
高校生くらいになって遊び人の大人と知り合いになったとき、あれはテーブルの下でおじさんがひそかに足で回転を加減して、針が当たりに入らないように操作しているのだと教えられました。
また、鉄腕アトムのマンガ本なんだけど、薄っぺらい手帳型のものがたくさんあって、それにくじが付いているというタイプもありました。僕らはそれを引いて、当たると分厚い単行本がもらえるというものです。もちろん、当たりなど入ってはいません。引いても引いてもはずれです。
 
 
勝負好きな少年だった僕の夜店は、悔しい思い出に満ちています。
1カ月分まとめてお小遣いをもらっていて、それを夜店で巻き上げられるのです。
戦いにはフェアーじゃないものもあることを知るのは、まだ、もう少し先のことでした。
 
 
                                 ムッシュ
 
えっ、なに?
おもしろくない?
わかりましたよ。夏祭りの笑える話なら、うえだたみおさんのとこですよ。
悲しき夏祭りはこちら。
 


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