ご機嫌いかが    2005/01/09
 
 
「お父さん。英語で、ハワユー? と聞かれたら、アイムファインサンキューと答えて、そのあとに、ハワユー? とかアンジュー? とか付けるよね」
「うん」
「お父さんの会話には、そのアンジュー? がないんよ」
 
 先日の、娘との会話です。
 なるほど。じわり、感じるものがあります。
 申し訳ないことに僕には引き出しがたくさんあって、おまけに、ひとつの引き出しは必ず別の引き出しとリンクされているものですから、話し始めると止まらなくなることが多いようです。
 若いころは、口の悪い無遠慮な仲間たちとばかり遊び回っていましたから、お互いに正面から個性をぶつけ合い、変に気を遣うこともありませんでしたが、社会に出てからは、物腰穏やかに聞き役に徹してくれるジェントルな友人たちも増えました。「ムッシュさんの話は比喩がおもしろいし、楽しいから好き」とか、お世辞にしてもそんなうれしい言葉を投げてくれるファンも出来て、少しブレーキが甘めになっていたかもしれません。
 
 確かに、根源的に話し好きですし、カラオケでもマイクは離したくない方です。
 娘の鋭い矢は、僕の胸に深く突き刺さりました。
 キャッチボールは会話の基本。アンジュー? がなければ、趣味のいい時間とはいえませんよ。
 とはいえ、会話の流れの中で相手にどんなボールを投げ返すか、これはなかなかむずかしいかもしれません。
 
「おいムッシュ、辞めるんだってな。定年までにはまだ数年あるのに、なんでだよ」
「うん、心配してくれてありがとう。だけどな、東京都職員の年金受給期間の平均が5年だって知ってるか。それだけじゃないよ。少なくとも僕が持ってる地方都市の公務員のデータでは、受給の平均が7年というのも複数ある。退職後のことは情報が少なくてみんな気付いてないけど、人知れず早死にしてる人が多いということなんだ。となると、人生って、トータルで考えないとな。お金だけの問題じゃないと思うんだよ。
 というわけなんだけど、君の方はどうなの?
 命を削って定年までしがみついて、やはり早死にするの?」
 
 ほら、だめだ。
 
 
 

 
 余談ですが、退職後は趣味に生きるという言葉をしばしば耳にします。
 しかし、僕らの世代の多くの仲間たちは、ほとんど厳密な意味での趣味を持っていません。
 2003年に書いた趣味についてでは、大企業の元社長さんに反発したい気分で、逆に、趣味を持った個性的な男たちもいるという触れ方をしましたが、残念ながら、実はそういう個性的な男たちはむしろ少数派であり、例外的だと認めざるを得ないかもしれないのです。
 

 
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